ラヴィアン・ローズ

1997/11/11 ユニジャパン試写室
ロシアマフィアの犯罪に巻き込まれたフランス青年の恋と冒険を描く。
マフィアのボスの姿に現代ロシアの実像がダブる。by K. Hattori



 ロシアマフィアに誘拐されたフランス人の青年が、マフィアの企てる巨大な詐欺事件の片棒を無理矢理担がされるというお話。架空の工場誘致計画をでっちあげて、そこに200万ドル投資させるという話は、なんでもロシアで実際にあった事件だそうです。この映画に登場する人物たちには、それぞれ固有のモデルがいるとか。ロシアという国は、やることのスケールが違いますね。もっとも、この映画は実際の事件をもとにしながらも、そこに自由自在な肉付けをしてオリジナルの世界を作っている。映画を観ればすぐわかることですが、面白さの主眼は「架空工場で200万ドル騙し取る」という詐欺話そのものではないのです。

 共産政権の下で自分たちのコネクションをかたくなに守り続けたマフィアたちが、ソ連崩壊と共に社会の表面に浮上し、同時に社会の混乱の中で自分たちの存続基盤である「掟」そのものを失ってしまうという皮肉を描いている。掟の遵守を部下たちに説き、掟に従ってフランス人の首を仲間に差し出そうとするマフィアの親分自身が、真っ先に掟を裏切っているという皮肉。仲間たちから「パパ」と慕われているこの老人の姿の中に、現在のロシアの姿が全部象徴されているように思えます。政治的圧迫がなくなったからといって、古き良き時代がそのまま蘇ることはない。それがわかって時流に流されながらも、古い価値観に縛られて生き方の根本を変えられない男の姿が、ちょっぴり哀れです。

 東京からパリに戻る途中の若いフランス人作曲家が、トランシットで降り立ったモスクワの空港で美しいロシア人女性に出会い、夜のモスクワへと飛び出して行く。目の回るような一夜を過ごし、ふと気がつくとロシアマフィアに誘拐されていた次第。空港で作曲家を誘惑した美女はマフィアの親分の娘で、大規模な詐欺の片棒を担がせるためにフランス人を誘拐したのだった。ここから物語は、ウズベスキタン、再度のモスクワ、イスタンブールを経由して、最後はパリのムーランルージュで幕を閉じる。タイトルの『ラヴィアン・ローズ』は、誘拐された作曲家とマフィアの娘のテーマ曲として流れるシャンソンの名曲「バラ色の人生」から取られている。

 1996年製作のフランス映画で、主演はヴァンサン・ペレーズ。でもこれは名目上のことで、中身はロシア映画と考えていいでしょう。監督・脚本は『タクシー・ブルース』のパーヴェル・ルンギン、パパ役のアルメン・ジガルハニアンや、娘オクサナ役のターニャ・メシチェルキナ、ジャファル役のドミトリー・ペフツォフなど、スタッフとキャストの中心部は旧ソ連系の人たちで占められている。ソ連が解体して市場が自由化されたことで、旧ソ連の演劇人も続々と西側に流れてきます。この映画でオクサナを演じたターニャ・メシチェルキナはこれが映画デビュー作だそうですが、今後はいろんな映画に出てくるようになるんじゃないでしょうか。すごくかわいいです。日本でもCMとかに使えばいいのに。


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