バンドワゴン

1997/11/10 徳間ホール(試写会)
アマチュア・ロックバンドの誕生と成功を描く'96年のアメリカ映画。
MGMのミュージカルとは関係ありません。by K. Hattori



 『バンドワゴン』と聞いて1953年のMGM映画を思い出さないようなら、その映画ファンはモグリです。フレッド・アステアとシド・チャリシーが主演したこのミュージカル映画は、MGMミュージカルのベスト・オブ・ベストを選ぶファン投票で、『雨に唄えば』や『巴里のアメリカ人』『イースター・パレード』などと常にトップ争いをする大傑作。一番の見せ場は、主人公たちが新しいショーを持って地方回りをする場面です。

 今回観た映画は、その「大傑作」とは縁もゆかりもない新作映画。音楽好きの仲間が集まって作ったアマチュアバンドが、少しずつ成功への階段を上って行く様子を描いた青春映画です。タイプとしては『ザ・コミットメンツ』や『すべてをあなたに』と同系列。もちろんバンドの演奏シーンもある、ぱりぱりの音楽映画です。タイトルの『バンドワゴン』はMGMのミュージカルではなく、R・E・Mの曲からとったと言います。

 「F・アステアなんて知らないよ」と監督・脚本のジョン・シュルツが言ったかどうだか知りませんが、この映画が映画の構成面でMGM版『バンドワゴン』を大いに参考にしているであろうことは間違いなさそう。序盤のメンバー集めからはじまり、最初のステージの失敗、地方巡業での成功、やがて故郷に戻ってバンドは我が道を歩きはじめる……、という構成は、そのままMGM映画『バンドワゴン』と二重写しになります。

 『ザ・コミットメンツ』と『すべてをあなたに』が、バンドの成功と離散を描いていたのに対し、この映画のバンドは解散せずに活動を続けて行く。もちろん幾度か解散の危機もあるのですが、それを辛うじて乗り越えて行く様子はスリル満点です。それまで幾多のバンドを渡り歩いたギタリストが、バンド内に不協和音が流れるたびに「まただ」「これでおわりだ」とつぶやく様子がじつにリアル。僕はバンド活動というものをしたことがありませんが、きっと多くのバンドがこうした大小の危機を乗り越えられずに解散してしまうのでしょうね。

 この映画では、バンド最大の危機がメジャーレーベルからのデビュー直前にやってきます。メジャーからの誘いを蹴って自分たちの音楽性を守るか、商業的な成功と引き換えに、会社側の音楽への介入を許すかの葛藤。バンドのソングライターが「音楽は譲れない」と突っ張ると、ドラマーは「今までさんざん苦労してきたんだから、そろそろ報われるべきだ」と反論する。結果はだいたいわかっていても、ドキドキする瞬間です。

 『ザ・コミットメンツ』『すべてをあなたに』『バンドワゴン』に共通するのは、マネージャーの存在の大きさです。むこうのバンドのマネージャーって、半分はそのバンド専属のプロデューサーみたいなものなんですね。この映画でもなかなかユニークなマネージャーが登場して、所々でおいしい場面をかっさらいます。演じるのはダグ・マックミラン。寡黙で謎めいた男に見えて、渋いギター演奏と歌を聴かせるあたりはかっこよすぎるぞ!


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