タイタニック

1997/11/07 渋谷公会堂(試写会)
ジェームズ・キャメロンが渾身の力を込めて描く歴史的海難事故。
ドラマの弱さを吹き飛ばす終盤のスペクタクル。by K. Hattori



 画面にみなぎる迫力に話題沸騰。息を呑み、手に汗握る3時間9分。1912年に起ったタイタニック号沈没事件に材をとり、2億ドルというハリウッド史上空前の製作費を費やした、ジェームズ・キャメロン監督渾身の大作だ。主演はレオナルド・ディカプリオとケイト・ウィンスレット。タイタニック号の中で知り合った貧しい青年と富豪と結婚間近の名家の令嬢が恋に落ち、地獄絵図のような惨事の中で互いの絆を確かめて行く。

 キャメロンが実際に海底に沈むタイタニック号を撮影したとか、撮影所に実物大のタイタニック号のセットを作ったとか、夏に公開するはずが完成が遅れて「本当に12月に間に合うのか?」とか、あまりの製作費にこれがこけるとフォックスやパラマウントの経営が危ないなど、話題ばかりが先行する作品でしたが、とりあえず出来上がった映画を観てすべて納得。タイタニックの沈没シーンなどは見世物映画としてもよくできているし、ラブロマンスとしてもまずまずのでき。ラストでは思わず泣いてしまったぜ。この冬はこの映画で決まりかな……。

 ラブロマンスとして「まずまず」どまりにとどまったのは、主人公ふたりをとりまく人々のエピソードに厚味がないからです。特にヒロインの婚約者がただの「嫌な金持ち」で、面白くも何ともない。婚約者キャルがヒロインのローズを、まるきり人間として認めていないことが、ドラマを単純にしてしまった。キャルは彼なりにローズを愛していることにしないと、ヒーローであるジャックも引き立ってこないと思う。キャルの人物像にもう少し厚味が出てくると、ジャックを執念深く追い回す召し使いの描写にも凄味が出てくると思うんだけどね。今のままだと、キャルとラブジョイの主従コンビはまるで漫画です。絵に描いたような「悪党」なんだよね。

 キャルの造形が薄っぺらだから、ローズの自殺願望も観客には強く伝わってこない。従って、ローズとジャックが恋に落ちる説得力はほとんどない。このふたりが恋に落ちる必然性は「ふたりが主人公だから」という、きわめて恣意的な理由にとどまっている。こうした序盤の弱さはドラマ進行にとって致命的な傷になりがちなんですが、この映画ではセットや衣装の豪華さや、演出テンポですべて補い、終盤ではすべての弱点を忘れさせる。

 主人公ふたりの視線を通して、観客はタイタニック沈没という歴史的大事件を目撃することができる。ここで描かれている阿鼻叫喚の地獄絵は、今までのどんな「タイタニック物」でも描かれることはなく、これからも描かれることのないものでしょう。このスペクタクル描写だけで、この映画は一見の価値があるはず。こればかりは映像で観るしかないので、細かい論評は避けます。

 今回試写会が行われた渋谷公会堂のイスはせまい上に硬くて、3時間超の大作を鑑賞する環境としては肉体的な苦痛を感じました。音響も単純なステレオで、船内の場面で音が後ろに回りこんだりしないし……。この映画は環境のいい劇場でもう一度観てみたいと思います。


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