ブレード

1997/10/28 東宝第1試写室
アクションで人物を語り、アクションで物語を綴る、荘厳なオペラ。
ツイ・ハークの香港アクション映画集大成。by K. Hattori



 『ダブル・チーム』でハリウッド入りしたツイ・ハーク監督が、その直前に香港で撮り上げたアクション時代劇。全編の7割ぐらいが剣戟場面で埋まっているのではないかと思わせる、凄まじい殺陣の数々。アクション映画のファンならこれは必見。筋肉は躍動し、血がたぎる活劇に、しびれるような満腹感が味わえます。上映時間1時間45分という、娯楽映画としては長くも短くもない尺数ですが、個人的には普通の映画のまるまる3本分ぐらいの満足度です。映画が終わった後も、しばらくはニヤニヤ笑いが止まりませんでした。

 若い刀鍛冶の男が、乱暴な猟師たちと戦って片腕を失い、残された左腕1本で血のにじむような剣術修行をした後、父の仇である全身入墨の男と戦ってこれを倒すという物語です。物語の語り手が刀鍛冶の師匠の娘になっていたり、同輩の若い刀鍛冶の恋にまつわるエピソードが挿入されていたりして、一種の青春物としても観ることが出来るかもしれません。でも僕はもう、話なんてどうでもいい。この映画で語るべきは、ただアクションのみ。映画もアクションで、必要なすべてを語っている。

 普通のアクション映画というのは、物語の背景や段取りがあって、その後にアクション場面になだれ込むという構成になっています。アクションそのものにはメッセージはなく、それ以前に語られた物語の帰着点としてアクションがあるわけです。こうした段階を踏まないと、口の悪い僕のような一言居士から「アクションに必然性がない」「主人公に感情移入できない」「単なる暴力描写は不愉快なだけだ」と言われてしまう。ところが、この『ブレード/刀』という映画は、そうした手続きを踏まない。人間同士の関係、誰が善玉で誰が悪党か、物語の流れなど、必要なことは、すべてアクションの中で語られて行くのです。このため、アクション以外のドラマ部分はものすごく短縮されて、全体の流れがスピーディーになっている。

 これはミュージカル映画と同じです。ミュージカルは、歌や踊りで、人間関係やドラマを語って行くため、全体のテンポを歌の部分で少し早めることができる。それまで赤の他人だったものが、1曲歌って踊れば百年来の友となり、仲睦まじい恋人同士になることができる。ツイ・ハークはそれと同じことを、アクション映画でやっているのです。ドラマ部分のダイナミックさも、アクション部分と同じテンションとリズムを保っていますから、これはミュージカル映画というより、オペラに近いかもしれませんね。アクション・オペラ・ムービーです。

 無数の竹竿を使った殺陣、折れた刀に鎖を巻きつけた武器、刀の柄に仕込んだ小刀、数枚の刃先に分かれる特製の刀など、道具立てもアイデアいっぱい。飛び散る血煙と土煙、汗の臭いが伝わってくるような、迫力のある絵作り。『座頭市』や『子連れ狼』などの勝プロ系時代劇が大好きな人は、ぜひともご覧になるべきです。たぶんツイ・ハークも、その手の映画が好きなのでしょう。


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