沈黙の断崖

1997/10/22 ワーナー映画試写室
『沈黙の要塞』に続いて環境問題を取り上げたS・セガール最新作。
俳優の顔ぶれと音楽の使い方がじつに素敵です。by K. Hattori



 スティーブン・セガール主演最新作。タイトルには「沈黙シリーズ完結編」とのショルダーコピーが踊ってますが、『沈黙の戦艦』『暴走特急』などの「ライバックもの」とは別系統の物語になっています。『沈黙の要塞』と同じく、日本の配給会社が勝手にシリーズに組み込んだ映画です。セガール自身が監督した『沈黙の要塞』は、映画の内容がいかにもアンバランスな映画でしたから、人気シリーズの一部として一種の抱き合わせ販売をしたのもわからぬではないのですが、今回の『沈黙の断崖』は思いのほか映画のできがいい。公開もいきなり決まったりで、もっと小粒のB級映画かと思ったのですが、どうしてなかなか侮れない映画ですよ。

 セガールが今回演じるのは、アメリカ環境保護庁(EPA)の調査員ジャック・タガート。ケンタッキー州にある小さな町の環境調査に送り込まれたEPAの調査員が、相次いで不振な死や失踪をとげる事件が発生している。どうやら町外れの廃坑に大規模な産業廃棄物投棄場があり、その事実を何者かがもみ消そうとしているらしいのだ。単身で町に乗り込んだタガートは、数少ない地域の協力者たちから情報を集め、地道な調査を繰り返しながら、事件の核心に迫って行く。やがてタガート自身にも脅迫の手が伸びてくる……。この物語自体はありきたりなものです。同じように環境問題を取り上げた『沈黙の要塞』に比べても、とりたてて新味はない。ところがこの映画は、その「語り口」がうまいんです。

 映画のオープニングで、主人公の乗る飛行機が事件の焦点になっている町に着陸するまでのわずかな時間で、それまでのいきさつをすべて説明してしまう手際の良さ。どちらかと言うと無表情で情感に乏しいセガールを補うように配置された、ハリー・ディーン・スタントン、レボン・ヘルムなどの激渋キャスティング。ヒロインのマーグ・ヘルゲンバージャーもしっとりと大人の色気を感じさせますし、悪役スティーブン・ラングは『ザ・ターゲット』に続いて冷酷な殺し屋をクールに演じています。黒幕役のクリス・クリストファーソンも、青天井の「儲け主義」の行く末にある人物を好演。自分のしている行為を「必要悪」と割り切るどころか、そもそも「悪」であることすら自覚していない様子は痛快で、しかも人物像にリアリティがあります。

 これだけクセのある出演者たち、しかもほとんど男ばかりを一堂に集めながら、映画がしっとりとした情感をたたえているのは、効果的に使われている音楽のためでしょう。オープニングのブルースから、エンドタイトルのカントリーまで、いかにも「アメリカ南部」を感じさせる曲が続きます。今回は出演者にもミュージシャンが多いし、何度か印象的な演奏シーンも出てくる。セガール自身がギターを弾く場面もあるし、実際に挿入歌の作曲を担当しているほど力が入っています。レオン・ヘルム扮する牧師の歌は「ただ者ではない!」と思いましたが、この人は「ザ・バンド」のメンバーね。さすが!


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