トゥー・デイズ

1997/10/20 徳間ホール(試写会)
ひとつの殺人事件をとりまく様々な人物像をグランドホテル形式で描く。
物語が面白いだけに人物描写の甘さが恨めしい。by K. Hattori



 多数の登場人物を同じ時間の流れの中に放り込み、それぞれの人生の断面を描きながら、人物たちが時に出会い、すれ違ってゆく映画を「グランドホテル形式」と言いますが、この映画も一種のグランドホテルなんでしょう。各登場人物はどこかで少しずつ接点を持ちながら、相互に深く関わって行く人物もいれば、完全にすれ違って互いの存在さえ知らない人物もいる。中心になる数個のエピソードを、登場人物たちが抱えるそれぞれの思惑や目的や悩みで取り囲み、物語全体に厚みをつけています。この映画で中心になるのは、ダニー・アイエロ扮する三流の殺し屋のエピソードと、テリー・ハッチャー演ずる、殺し屋に殺された男の元妻のエピソードでしょう。プレス資料ではジェームズ・スペイダー主演になってましたが、この物語をスペイダー中心に観ていくのはちょっと辛い。スペイダーのキャラクターはそれなりに面白いんだけど、あまり感情移入できるタイプの人物像ではあり得ない。人間味たっぷりの登場人物が大勢いるのに、冷酷な殺し屋に感情移入などするはずがない。

 こうしたタイプの映画では、キャラクターの造形は絶対的な意味を持つ。そうした点から考えると、この映画に登場する人物のディテールには、ステレオタイプで手垢のついた描写が多い。中でも物語を引っ張るダニー・アイエロの造形には、まったく新鮮味を感じなかった。殺し屋のくせに、犬が嫌いで、かつら着用で、料理好きという描写は、単に「意外にも……」という線を狙っただけです。この役にもっと説得力があれば、この映画の印象はもっともっとよくなったと思う。そこそこ面白い映画だけに、おざなりな人物設定が気になるし、残念にも思います。グラッグ・クラットウェル演ずる腎臓結石の男や、その秘書のグレン・ヘドリー、売れない脚本家のポール・マザースキー、殺人課志望の売春課刑事エリック・ストルツなどもイマイチなんだよね。

 金髪の殺し屋ジェームズ・スペイダーに関しては、人物像の厚みはないけど、ディテールは魅力たっぷりに描けている。これから殺そうとする人物に最後の1分間を与えたり、何の脈絡もなくいきなり北朝鮮スパイの話をはじめたり、表情ひとつ変えずに自分の恋人を射殺しようとしたり……。何が彼をそうさせているのかはまったく謎ですが、そうした行動に一種のリアリティを感じさせるのです。クライマックスの銃撃戦なども含めて、いつものスペイダーからは考えられないような激しい芝居。これは彼のファンには応えられませんね。

 主要な登場人物で水準以上の仕上がりになっていたのは、テリー・ハッチャー演ずるオリンピック選手ぐらい。あとはチョイ役が味のある芝居をしているのが印象的。子供へのプレゼントを用意するジェフ・ダニエルズ、登場したとたんに殺されてしまうピーター・ホートン、かつて自分を使った演出家に悪態をつく役者などは、人物のディテールしか存在しない端役であることが幸いして、じつに印象的な後味を残すのです。


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