エアフォース・ワン

1997/10/20 ブエナ・ビスタ試写室
大統領みずからテロリストと肉弾戦を演じる荒唐無稽な話ですが、
最初から最後までハラハラドキドキしっぱなし。by K. Hattori



 タイトルの『エアフォース・ワン』とは、アメリカ空軍が所有する大統領専用機のコードネーム。世界でもっとも巨大な権力を持ち、もっとも多忙な政治家である大統領の公務は、飛行機での移動中も途切れること許されません。エアフォース・ワンの機体は、最新の情報機器と通信設備、数十人の大統領側近を抱えたまま空を飛ぶ、第2のホワイトハウスなのです。この飛行機が、もし大統領ごとテロリストにハイジャックされたらどうなるか? そんなアイデアだけなら誰だって思い付きますが、そこからストーリーを組み立てて、手に汗握るノンストップ・アクションムービーに仕立てた手腕は見事です。

 ハリソン・フォードが国民から圧倒的な指示を受ける大統領を演じていますが、この映画に小さな傷を見つけようとすれば、このフォードこそが欠点でしょう。家族や仲間を残してひとりだけ逃げられない気持ちはわかりますが、この個人的な気持ちで、アメリカという国の威信と安全、冷戦後の世界秩序そのものを木端微塵にしかけた責任は重大だと思います。そんな自分の立場さえ忘れてしまう馬鹿正直な大統領なのですが、フォード演ずる人物は分別くさくて、とてもそんな無鉄砲をするようには見えない。彼の柄には合わない役なんです。

 ついでに言えば、敵役のキャラクターにも疑問がある。テロリストたちはソビエトの解体に反発する極右の軍人という設定ですが、彼の国で「極右」と言うからにはバリバリの共産主義者のはず。ゲイリー・オールドマンはどこからどう見ても、狂信的なコミュニストには見えないぞ。しょうがないから「インターナショナル」を歌わせてましたが、それだけじゃなぁ……。ま、映画に必要なのは「冷酷無比なテロリスト」ですから、彼らの思想信条などどうでもいいのかもしれないけど。

 登場する役者たちのうまさは、ひとりひとり名前を出して称賛の言葉をかけたいほどですが、中でひとりだけ名前を挙げるとすれば、やはり副大統領役のグレン・クローズに大きな拍手を贈りたい。これはキャスティング・ディレクターの功績も大きいのですが、クローズなしではこの映画が存在しなかったのではと感じさせるほど素晴らしいでき。テロリストとの交渉という、絵柄としては地味な場面がふっくらと仕上がっているのは、彼女の存在があったからです。人質射殺の報を聞いて彼女が一粒の涙をこぼしたり、記者会見で質問攻めにあい「エアフォース・ワンのために祈ってください」と言い放つときの、彼女の表情の力強さ。

 『エアフォース・ワン』はここ数ヶ月に観た映画の中でもっとも面白い映画だったことを、最後に正直に告白しておきましょう。『メン・イン・ブラック』もよくできてますが、迫力では『エアフォース・ワン』が勝ります。とにかく手に汗握ってハラハラドキドキしたい人は、何がなんでも劇場に足を運んでほしい。この映画を観ても「ビデオでもいいと思いました」と言う人は、これから一生ビデオで済ました方がいいです。とにかく劇場で観てくれ!


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