離婚のあとに

1997/10/13 徳間ホール(試写会)
作家志望の中年男に愛想付かしをした妻と、そんな男に惹かれて行く妻の妹。
物語はそこそこ面白いが、音楽には大いに問題がある。by K. Hattori


 「中国映画祭97」で公開される映画の1本。北京で大ヒットした映画ですが、原作は舞台劇だそうです。登場人物は、作家志望の中年男リー・ハオミン、生活力のない亭主に愛想尽かしをして離婚した元妻ホイ、その妹ホンの3人。ハオミンは離婚した後も定期収入がないため、妻の借りている部屋から出て行くことができないでいる。そんな彼にうんざりしたホイは、北京を訪れていた妹ホンに部屋を明け渡し、自分は子供を連れて別の部屋に移る。姉から義兄のことをさんざん聞かされてきたホンは、ハオミンのことを馬鹿にしているが、やがて彼の心の内を理解し、愛し合うようになる。

 義理の兄妹とはいえ、赤の他人である男女が同じ部屋で暮らすのは不謹慎かと思ったが、ホンが徹底してハオミンを馬鹿にしている様子が克明に描かれていて、「これじゃどんな間違いも起りそうにないわい」と納得できる。登場直後のハオミンは、およそセックスアピールとは無縁の男だし、ホンはそんな彼を人間以下の扱いしかしない。浮世ばなれした文筆活動に精を出し、収入が皆無で生活力が完全に失われているハオミンは、自分自身の将来に不安を感じながら、筆一本で(実際はワープロだけど)生活して行く夢を捨て切れない。夢と現実との間で宙ぶらりんの生活を送り、自分自身に対する迷いも生まれ始めている。自分の能力に自信も失いかけている男に、どんなセックスアピールもありそうにない。僕も長く失業していたことがあるので、主人公の気持ちはよくわかる気がしました。

 物語が進むにつれて、主人公の夫婦生活が無残なものであった現実が、鮮烈なイメージとして伝わってきます。「彼女はとうとう僕を理解しなかった」と涙を流す主人公には同情してしまった。彼が作家として身を立てたいという夢や、その夢を削り取るように小さな仕事をコツコツこなしてきたという現実を無視して、「仕事を探せ」「どこかに務めろ」としか言わない妻。どこの誰よりも主人公を徹底して馬鹿にしていたのは、すぐ近くにいた妻だったのです。夫と離れた後も、子供の素行を見て「私に似て頭がいいんだけど、父親に似て下品だ」と言い切ってしまうホイ。彼女は彼女なりに懸命に生きてきたんだろうけど、その生き方がハオミンとは重なり合わなくなっている。元夫を悪し様に言うのは、彼女が自分自身を奮い立たせる防衛本能のようなものなのかもしれない。でもそれが、どれだけハオミンを傷つけたか。

 物語はけっこう考えさせられることもあるし、とても面白い部分もある。しかし音楽の使い方が大げさで、映画の情感を大きく殺いでいると思う。大人のラブストーリーなのに、パーカッションを多用したテーマ曲は、サスペンス映画みたいな雰囲気。物語をドラマチックに盛り上げる音楽は、男女3人の小さなドラマを大作映画のように盛り立ててしまう。物語の規模と、演出のトーンがかみ合ってないことが、僕をしばしば白けさせてしまった。音楽がなければいい映画なんだけどなぁ……。


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