ブラス!

1997/09/26 シネカノン試写室
ブラスバンドの話を通じて炭鉱町のコミュニティ全体を描いている。
演奏シーンの素晴らしさに物語が助けられた。by K. Hattori



 イギリスの炭坑町にある名門ブラスバンドが、炭坑の閉鎖で財政的にも人材面でも危機に陥りながら、それを乗り越えて全国大会で優勝するまでを描いた劇映画。ブラスバンドの映画と聞いて、最初は『ザ・ミュージック・マン』みたいな話かと思いましたが、予想以上にシリアスな話でした。「ミュージカル映画」「音楽映画」というほど音楽が中心にはなっていませんが、音楽なしには成立しないような不思議な魅力のある映画です。

 監督いわく、この映画は「コミュニティの崩壊」がテーマなのだそうです。町の中心産業であった炭鉱が閉鎖されることで、人々の生活が根底から破壊されてしまう様子が、じつにリアルに描かれています。壊れてしまうのは個人の生活だけではなく、人と人や、家族と家族を結びつけていた絆までがズタズタに引き裂かれる。仲間同士の裏切りや疑心暗鬼、仲間や社会に対する帰属意識と生活とのギャップ。そうした中で揺れ動き、大海の小船のように揺り動かされる人間たち。

 ドラマ部分は結構やりきれないエピソードが続きますが、それを押しのけて映画全体に楽天的なムードとハッピーな気分を与えているのは、ブラスバンドが奏でる音楽の数々。金管楽器のきりりと引き締まった音色が画面からまっすぐに耳に飛び込んでくると、全身の毛が逆立つような興奮を覚えます。映画の中でも、バンドメンバーの奥さんたちが練習場で1度演奏を聞いてブラスバンドのとりこになる様子が描かれてましたが、この気持ちが僕にはよくわかる。僕も中学時代にちょっとだけ吹奏楽部に入ってましたが、その動機はやはり間近に聞いたバンド演奏の迫力に魅了されたからです。

 演奏曲目と物語がぴったりと一致しているかどうか、僕にはちょっと判断できないんですが、バンドリーダーが入院した病院の外で「ダニー・ボーイ」が演奏される場面は泣けた。ラストの「威風堂々」も素晴らしい。映画の中には他にも「アランフェス協奏曲」や「ウィリアム・テル序曲」など馴染みの楽曲が多く使われているので、特に音楽に詳しい人でなくても「あ、あの曲」と思う曲がいくつかあるはずです。

 物語の部分はエピソードがぶつぎれで、中心になるドラマが何なのか不明確だった点が弱い。炭鉱閉鎖に至る労働者と会社側の交渉、アンディとグロリアのロマンス、バンドリーダーのダニーと息子フィルの確執と和解、空中分解しかけたバンドの再生など、どのエピソードも面白いのだが、物語の牽引力としてはどれも弱い。エピソードを減らす必要はないけど、どこにアクセントを置くかを決めて、メリハリのある物語を組みたてた方が映画が引き締まったと思う。

 この映画に登場するグレムリー・コリアリー・バンドには、グライムソープ・コリアリー・バンドというモデルがあり、演奏シーンの音はすべてこのバンドが担当している。炭鉱閉鎖後もバンドを残し、全英チャンピオンとなったバンドの演奏は素晴らしい。感動しました。


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