アメリカン・バッファロー

1997/09/05 GAGA試写室
1枚の古いコインを巡って男たちのむき出しの欲望が衝突する。
ダスティン・ホフマン主演の地味な映画。by K. Hattori



 ジェームズ・フォーリー監督の『摩天楼を夢みて』は、アル・パチーノ、ジェック・ラモン、アレック・ボールドウィン、エド・ハリス、アラン・アーキン、ケビン・スペイシーらが出演した不動産セールスマンの物語。男同士の火花散る芝居の応酬は見応えがありました。この映画の原作は、1984年にピューリッツァ賞をとった舞台劇「グレンギャリー・グレン・ロス」。映画化に際しては、原作者のデビッド・マメット自身が脚本を書いています。この『アメリカン・バッファロー』は、『摩天楼を夢みて』と同じデビッド・マメットの舞台劇を、同じくマメットが映画用に脚色した作品です。主演はダスティン・ホフマン。『摩天楼を夢みて』と同様、男ばかりが登場してエゴをぶつからせる話です。

 監督はこれが2作目のマイケル・コレント。94年に『フェデラル・ヒル』という映画でデビューし、高い評価を受けた人だそうですが、生憎と僕はこの映画を観ていません。『アメリカン・バッファロー』は舞台になるのが小さな古道具屋の店内、登場人物は3人の男たちだけという小さな芝居です。はっきり言って、映画としてはものすごく地味なもの。『摩天楼を夢みて』も不動産セールスマンの集まる事務所がメインの舞台になっていましたが、そうした道具立ての地味さを俳優たちの顔ぶれで補おうという努力がありました。『アメリカン・バッファロー』に出演している俳優は、残念ながら『摩天楼を夢みて』ほど豪華じゃない。主演のホフマンは有名な俳優だけど、残りふたりがまったくの無名ですから、観ている側から言わせれば、ダスティン・ホフマンの一人舞台を観ているようなものです。

 この役は、初演でロバート・デュバル、再演でアル・パチーノが演じているのだそうです。でもダスティン・ホフマンには、彼らが持っているような男の色気がない。芝居が上手いのは認めますが、役を演じているもの以上に見せる、スター俳優独特のオーラが少ない。例えばアル・パチーノが出演した舞台劇の映画化作品『恋のためらい/フランキーとジョニー』は、映画としては二流だったし、パチーノもそんなにいいと思えないけど、彼には役をはみ出す色気があるのです。

 ダスティン・ホフマンがこの映画の前に出演した『アウトブレイク』という映画を思い出せば、レネ・ルッソやドナルド・サザーランドなどに比べ、ホフマンの演技力は傑出していることがわかるはず。でも、存在の地味さでもまた傑出しているから、映画の中で彼がちっとも映えないんです。『トッツィー』では女装している部分が面白いけど、化粧を落として素に戻ると魅力がない。『ファミリー・ビジネス』では、前半のホームドラマ部分は最高に面白いけど、後半の盗みの場面は駄目だった。彼は普通に等身大の役をやっていると面白い味を出すいい役者だけど、そこから外れると駄目ですね。

 僕はちょっと眠くなっちゃいましたけど、この映画はお芝居が好きな人なら観て面白いと思います。


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