スノーホワイト

1997/08/18 GAGA試写室
これで「グリム兄弟の」という枕詞を使うのは彼らに失礼です。
ファンタジーを何と考えているのか。by K. Hattori



 誰でも知ってるグリム童話の「白雪姫」を、ディズニー映画や子供向き絵本風の甘ったるい内容ではなく、残酷で血生臭い原典に忠実に描いたファンタジー映画。白雪姫に扮するのは、『あなたが寝てる間に…』にピーター・ギャラガーの妹役として出演していたモニカ・キーナ。彼女を殺そうとする継母の魔女役に、シガニー・ウィーバー。その夫で、白雪姫の実父である殿様役はサム・ニール。豪華な衣装やセットで、童話に描かれている中世的な雰囲気を生み出しているのには感心しましたが、映画自体はまったく面白くない。童話の解釈が、まるっきり「そのまんま」でひねりがなく、面白味に欠けるのです。ストーリーを現実的に解釈しようとしてファンタジックな描写を廃した部分と、堂々とファンタジックな描写を押し通す場面の明確な差が見えず、どちらも中途半端に感じてしまいました。

 同じグリム童話を映画化しても、ニール・ジョーダンの『狼の血族』は徹頭徹尾ファンタジーに徹し、その中から普遍的なテーマを汲み出そうと努力していた。『スノーホワイト』はどこまでが現実で、どこからがファンタジーなのか不明確すぎる。魔法と神秘を排斥しようとした結果、登場する魔法も神秘も、どうしようもなく安っぽく場違いなものに見えてしまう。

 母親を失った家庭に嫁いできた後妻が、一人娘と折り合いが悪くて苦労するという中世ヨーロッパ版のファミリードラマからスタートし、互いに折り合いのつけられない義母と義娘の確執が殺意にまで発展すると、物語は突然ホラー映画になってしまう。義娘に対する苛立ちは理解できないではないが、それがいきなり殺意に至る過程にはあまり説得力がない。映画の前半で、我々の知っている「日常」を物語の中に織り込もうとするアイデアは買うが、後半になるとそれをかなぐり捨ててしまうのはなぜだろうか。結局この映画は、アイデアが物語としてきちんと練られていないのです。

 超自然的(魔術的)なエピソードを使わなくても、白雪姫の物語は描ける。白雪姫の中から人物配置だけを取り出して、それを現代的な解釈を施したエピソードで肉付けしてゆけばよい。そう言う意味では、映画の序盤はアイデアとして面白かったが、芝居が練られていないため、単なるアイデアの絵解きで終わっているのは残念。ここでもっと密度の濃いドラマを感じさせられれば、その後の物語も面白くなったはずなのに……。

 童話では徹底的に受け身だった白雪姫が、この映画では途中から能動的に行動し始める。このあたりは、いかにもフェミニズム定着後の現代的解釈ですが、問題はやはり、それが面白いか否かなんだよね。僕はこの展開を、ぜんぜん面白いとは思わなかった。逃げ出した白雪姫が城に戻らない理由も分からないし、ガラスの棺など細部だけ原作に沿ったチグハグさも我慢ならない。脚本の段階で、もっとみっちりと練れば今より数倍面白い映画になっただろうと思うだけに、この出来は不満だ。


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