ネイティブ・ハート

1997/07/31 東宝東和試写室
絶滅したはずのシャイアン族が130年前の姿で生き残っていた。
トム・ベレンジャー主演のファンタジー映画。by K. Hattori



 護送車から脱走した囚人を追跡していたトム・ベレンジャー扮する賞金稼ぎルイス・ゲイツが、モンタナ州オックスボウの山の中で、130年前に絶滅したはずのシャイアン族に出会う話。この映画に登場するアメリカ先住民は、政府に保護され居留地で細々と伝統文化を守っている「ネイティブ・アメリカン」ではなく、かつて白人の支配と血みどろの戦いを繰り広げた恐るべき「インディアン」の末裔たちです。

 1864年、和平の誓約を踏みにじった白人の襲撃で多数のシャイアン族が殺されたサンド・クリークの虐殺から、からくも落ち延びた数十名のシャイアン族。勇猛果敢な戦闘集団「ドッグメン」を中心に、彼らはモンタナの山奥で130年前と同じ生活を続けていた。この映画の原題は「LAST OF THE DOGMEN」。言うまでもなく、これはジェイムズ・フェニモア・クーパーの「モヒカン族の最後(THE LAST OF THE MOHICANS)」のもじりでしょう。インディアンと白人との交流と悲劇的な結末を描いた古典を、新しくよみがえらせようとしたファンタジーが『ネイティブ・ハート』なのです。

 僕はこの映画を観て、アメリカ人の良心の呵責がそのまま物語に反映されていると思いました。かつて北米大陸で暮らしていた先住民族を不当な方法で辺境に追いやり、虐殺・弾圧・差別によってとり返しのつかない打撃を与えた歴史。できることならもう一度、白人とインディアンとの出会いから歴史をやり直したい。歴史の教訓を生かして、今度は新しい理想的な関係を作りたい。現実にはとてもできないことですが、それがファンタジーの中でなら可能になる。インディアンに敬意を払い、その文化や生活を尊重し、互いに一定の距離を置きながら友情を育む。異なる文化を守ることで、我々文明人の失ったものを学ぶ機会を持つ。現実には決してできない夢が、この映画の中には描かれているのです。

 主人公たちの行動や考え方に、やや独善的なものや虫の良さを感じる点もある。彼らは独自の文化を守りながら暮らすシャイアン族を白人から守るため、他の白人たちの接触を徹底的に拒もうとする。でも、自分たちはその例外として、自由にシャイアンの社会と文明社会の間を往復できる特権を確保している。なぜ他の人たちは駄目で、自分たちだけはいいのか。自分たちが「いい白人」だからだろうか。そんなことが少し気になった。

 この映画のインディアンたちは、手付かずの森林地帯が残っているからこそ、白人たちに見つかることなく生き延びることができたという設定。つまり、インディアンはアメリカに残された「大自然」の象徴なのです。自然の豊かさを誇れるアメリカ人が、僕はうらやましい。

 130年前のインディアンの生活を、映画の中で丹念に甦らせている部分は見事。『ダンス・ウィズ・ウルブズ』『ラスト・オブ・モヒカン』などにも参加したエルザ・ザンパレッリが衣装デザイン担当。衣装や小道具、集落のセットなどは、すべて手作りだそうです。


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