将軍家光の乱心
激突

1997/07/14 新宿昭和館
千葉真一演出のアクション場面には工夫があって面白く見られる。
降旗康男のドラマ演出はぜ〜んぜん駄目。by K. Hattori



 昭和64年製作の東映時代劇大作。将軍家光の嫡子抹殺を阻止するため、金で雇われた凄腕の浪人たちが死闘を繰り広げる。監督は降旗康男ですが、この映画の面白さを作っているのはアクション監督と出演を兼ねた千葉真一でしょう。従来のチャンバラ映画にはなかったスピード感とダイナミズムで、血沸き肉踊る活劇を作ろうという意欲が見て取れます。ただしドラマ部分の弱さが、そんな千葉の意欲を受け止めきれていないのは残念。

 基本的に勧善懲悪のドラマなのだから、へんにもったいぶることなく、最初に善玉悪玉を明確に塗り分けてしまった方がよかった。悪は悪、善はあくまでも善であってこそ、観客はその後安心して善玉を応援できる。役者たちは精一杯、それこそ身体を張って芝居をしているのに、それが空回りしてしまったのは、脚本が悪いのか、それとも演出が悪いのか……。善玉の大将が緒形拳、悪玉の大将が千葉真一。このふたり以外に、目立った人物がいないのは不満だ。千葉の背後には老中の松方弘樹がおり、その背後には将軍家光がいる。家光が京本政樹というキャスティングも、黒幕の大悪党としては弱すぎる。

 逆に京本の線の細さを逆手にとって、老中の松方が将軍を思うがままに動かしているという設定にした方が面白かったかも。松方クラスの俳優なら、最後にいい格好しようと考えずに徹底的に悪に徹し、憎らしい悪党の魅力を発散してほしい。昔の時代劇には、必ずそういう悪人の魅力があふれていたもんですけどね。

 世継ぎ竹千代を守る浪人たちの描き方も、個性的な人物の魅力が見える演出にしてほしかった。次々と命を投げ出す男たちの気持ちには、いろいろな理由があると思うのです。大義のため、自分自身の矜持のため、仲間のため。そんな「死にっぷり」をたっぷりと見せてこそ、個々の人物が立ってきて、物語にもふくらみが出るんだと思うけどな。表向きは「金のため」と言ってはばからない男たちです。でも迷うことなく命を捨てるところを見ると、本当は別の理由があるはずなんです。それが明確に見えてくると、男たちはもっともっと格好よくなる。

 アクション場面には力が入ってます。刺客たちが使う金属製のポールのような武器は面白い。馬を使った西部劇ばりの追跡シーンも見事。中国から俳優を連れてきて、カンフー対チャンバラの戦いを見せるのもユニークです。緒形拳と千葉真一の一騎打ちも、なかなかダイナミックな殺陣になっている。本当はからみ(切られ役)を20人ぐらい斬り倒してから一騎打ちになるのが本当だと思うんですが、この映画は総じてからみが力不足で、ろくな斬られ方をしてません。

 クライマックスの宿場での攻防戦を見て、これが『十三人の刺客』の逆パターンであることに気がついた。手本になる映画があるのに、どうしてこの映画はこんなにアラばかり目立つんでしょうね。アクション場面はともかくとして、ドラマ部分には『十三人の刺客』を参考にすべき点はまだまだあるはずなんだけどな。


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