ヘラクレス

1997/07/11 ブエナ・ビスタ試写室
どうせつまらないだろうと思っていたら、そうでもないじゃん。
今回は音楽場面がよかったので、まずは満足。by K. Hattori



 ギリシャ神話を翻案した、ミュージカル仕立ての長編アニメーション映画です。内容は本来の神話をかなりいじっているようで、ギリシャ神話に詳しい人からはクレームもついているとか。物語は有名なギリシャの英雄の若き日の姿を、主人公の恋をからめて描きます。ギリシャの神々に祝福された青年が、怪物や悪い神と戦う中で少しずつ成長し、真の英雄になる物語です。主人公の名前はヘルメス……、じゃなくてヘラクレス。予告編で観た範囲ではあまり食指を動かされない映画だったのですが、実際に本編を観てみると、思っていたよりずっと面白い映画になっていました。さすがディズニー。同じようにギリシャ神話に材をとった『ヘルメス・愛は風の如く』というアニメ映画もありましたが、娯楽映画作りの基礎的なノウハウが違いますね。思わず、そうした低いレベルの比較で感心してしまいました。

 ディズニーの長編アニメとしては、これが35作目になるのだそうです。前作『ノートルダムの鐘』はディズニーアニメの到達点として、「行くところまで行ってしまった」閉塞感さえ感じさせる映画でしたが、その次に作った『ヘラクレス』がいきなりこんなにスカスカだと、まだまだディズニーアニメが伸びて行く可能性も感じます。それに、ミュージカル場面もじつに楽しく仕上がっているのが嬉しかった。『ノートルダムの鐘』は音楽が立派すぎて、帰り道でテーマ曲さえ口ずさめないという欠点がありましたが、今回は見事にポップな仕上がり。ミューズたちが歌うゴスペル風の曲も素敵ですし、主人公が旅立ちの時に歌うテーマ曲「Go the Distance」、ヘラクレスのコーチ役フィルがトレーニング中に歌う曲、ヒロインのメグがヘラクレスへの恋心を歌い上げる曲などが印象に残りました。「Go the Distance」を最後に藤井フミヤが歌ってしまうのもご愛敬です。

 『ライオン・キング』の際に「盗作ではないか」と非難されたディズニーですが、彼らが日本のアニメーション作品に影響を受けているのは間違いのない事実。今回の映画では、宮崎駿の描く飛翔シーンに影響されたとおぼしき飛行場面が何度か出てきます。ペガサスにまたがったヘラクレスが星空に浮かぶ雲海の中をぐんぐん飛ぶ場面など、アニメーターが宮崎駿タッチを出したくて苦労している様子がじつによく伝わってきます。でも、ここで描かれているのは「似て非なるもの」にしかなっていない。こうして比べると、逆に宮崎駿の天才アニメーターぶりがわかります。我が国の宝ですね。宮崎駿はジブリを辞めるそうですから、こうした飛翔シーンだけディズニーに行って手伝ってあげればいいのに。僕は野茂や伊良部が大リーグで活躍するより、その方が面白いと思いますけどね。

 物語は御都合主義のかたまりで、エンディングは嘘っぱちだと思う。もうちょっとマシな終らせ方は考えられなかったんだろうか。多分、最初から考えようとさえしなかったのだと思うけど……。


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