明日なき街角

1997/06/23 松竹第1試写室
傑作『エンドレス・ワルツ』の若松孝二にしては物足りない映画。
面白いところもたくさんあるんだけどね。by K. Hattori



 北方謙三の同名小説を映画化した、若松孝二監督の最新作。主演は『キッズ・リターン』の金子賢と、中堅実力派の的場浩司。的場浩司はこれだけ出ずっぱりでも、タイトルには「友情出演」と記載されている。日本映画で「友情出演」というのは、「正規のギャラを払っていません」という意味であることがほとんど。この映画もいかにも「低予算」って感じだもんなぁ。脇役で室田日出男が顔を出してますが、このくだりはこの規模の映画ではめっけもんの名演です。

 若松監督は一昨年の『エンドレス・ワルツ』が素晴らしかったので期待していたのですが、今回はあまりノレませんでした。この監督はアタリとハズレの振幅が大きい人です。『寝盗られ宗介』や『エンドレス・ワルツ』は素晴らしかったけど、『シンガポール・スリング』や『エロティックな関係』は箸にも棒にもかからなかった。今回はそれでも、一応は最後までハラハラドキドキしながら映画を観ていたから、駄作ってわけではない。ただどうしようもなく安っぽいのです。絶望的に製作費がなかったんだろうということが、少し観ただけでわかってしまう場面の数々。要所要所では密度の濃い芝居を見せてくれるんだけど、そこを外れると取り繕いようのないボロボロの醜態を見せてしまう。

 冒頭の新宿駅の場面や、金子と室田日出男のからみ、金子とガールフレンドのエピソードなどはよかった。金子が演じた土井哲二という青年の成長が、正攻法に描かれていて好感が持てるのだ。金子の周りにいる人物はみんな素敵なんです。彼を見守りながら死んで行く先輩運び屋や、その恋人のエピソードもよかった。この映画は真ん中からふたつに切って、金子のいる半身だけを取れば傑作になりそうなんですけどね。

 駄目なのは的場浩司の側のエピソード。的場浩司は好きな俳優なんですが、どういうわけか最近少し芝居が荒れてないかなぁ。僕が観ていない映画ではいいのかもしれないけど、僕が観る映画はここのところずっと駄目だ。この映画の的場は、ひとりで目玉をひんむいてヤクザの凶暴性を表現しようとくわだて、結果として周囲から浮いていたと思う。ただし、的場側の話の弱さは、周りの出演者の弱さにも責任があるのだ。的場の恋人を演じていた金久美子に魅力がなくて、これが的場の男の格を思い切り下げてたんだよね。金は『失楽園』にも出演してましたけど、どこで見てもあまり魅力を感じないなぁ。

 的場が属しているヤクザ組織も、人があまりにも少ない。社長の身辺を警護している若い衆に、もう少し不敵な面構えの人物が数人は欲しかった。その前に社長室のメンバーに悪党の凄みを感じないのだから、これは最初から無理があったのかな。物語は復讐劇なのですが、敵役がこんな小物では物語が盛り上がらないよ。

 主演の金子賢はよかった。『キッズ・リターン』の二人組では安藤政信が注目されがちだけど、金子賢も役者として伸びて行けば大物になりそうな予感がします。


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