愛さずにはいられない

1997/06/17 ソニーピクチャーズ試写室
『デスペラード』のサルマ・ハエックのハリウッド映画初主演作。
相手役マシュー・ペリーの線がやや細いのが残念。by K. Hattori



 ロバート・ロドリゲスの『デスペラード』でバンデラスの相手役を演じ、『フロム・ダスク・ティル・ドーン』で女吸血鬼を演じたサルマ・ハエック主演の、ロマンティックなラブ・ストーリーです。ニューヨークのビジネスマン、アレックスは、新しいナイトクラブを作るためにラスベガスに赴任。そこで知り合ったメキシコ娘イザベルと意気投合して一夜を過ごすが、翌朝目覚めると彼女は消えていた。それから3ヶ月後、突然彼の前に現われたイザベルは彼の子を妊娠していることを告げる。

 主人公たちを物語の序盤で結婚させてしまい、新婚家庭のすったもんだを描く構成を見て、『ザ・エージェント』を思い出しました。ハリウッド映画というのはずっと恋愛のゴールを結婚に置いてきたわけだけど、結婚で本当に大変なのは、じつは結婚した後なんです。互いに何十年も別の生活をしていた人同士が、同じ生活空間と時間を共有するのだから、いろいろな衝突や軋轢がそこから生まれてくる。ましてや子供が生まれるなんてことになれば、なおさら大変です。結婚している人なら多かれ少なかれそうした経験があると思うので、このタイプの映画は今後も増えてくるかもしれません。少し前には『9か月』という映画もありました。あれもずっと恋人同士だったカップルが妊娠を期に結婚し、その後の生活の変化に振り回される様子を描いた映画でした。

 『愛さずにはいられない』は規模の小さな映画ですが、内容的には見るべき所の多い映画です。登場人物のキャラクターもそれぞれ個性豊かに描けているし、物語の緩急をわきまえた演出も見事です。ジョン・テニー扮する主人公の同僚が、ややもすると上滑りになりそうな物語をがっちりと日常の中に根づかせている。恋愛ドラマに必ず登場する恋のライバルも、それぞれ愛すべきキャラクターに仕上がっています。中でもアレックスの幼なじみのキャシーのエピソードはよかったし、演じていたスザンヌ・スナイダーも見事でした。レストランでイザベルに出会う場面の表情は素晴らしいです。目の前のメキシコ人女性がアレックスの奥さんだと知って、ショックを受けながらも精一杯の笑顔で祝いの言葉を述べるところなど、彼女の気持ちをおもんばかると胸が苦しくなります。ラストのヘリポートの場面は、ちょっと泣いちゃったよ。いい人だとは思うんだけど、縁がないときは何をやっても縁がないんだよね。

 なんだかでき過ぎた話ですが、これは製作者であるダグ・ドレイツィンとアンナ・マリア・デイヴィスの実体験に基づいているとか。それを映画用の物語にまとめたのはジョアン・テイラーと『フラッシュダンス』の脚本家キャサリン・リバック。最終的な脚本はリバックが書いている。女性がまとめた物語のせいか、この映画は女たちが本当に強くたくましく魅力的です。主人公たちの両親も、母親の方が強いもんね。とりたてて派手なところのある映画ではないけれど、普通の脚本を普通に撮ればいい映画ができるという、教科書のような作品です。


ホームページ
ホームページへ