クローンズ

1997/05/22 ソニー試写室
マイケル・キートンがどんどん増えて行く特殊効果と芝居は見事。
ただしコメディ映画としてはあまり笑えない。by K. Hattori



 『恋はデジャ・ブ』のハロルド・ライミス監督の最新作。『恋はデジャ・ブ』では同じ時間が何度も繰り返される様子を面白く描いていましたが、今回はクローン技術で同じ人間が何人も複製される様子を描いています。主演はマイケル・キートン。共演に『恋はデジャ・ブ』にも出演していたアンディ・マクドウェル。僕はマクドウェルをデビュー作『グレイストーク』の頃から知っているので、今回ふたりの子供の母親役で登場したことに、時の流れを感じてしまいました。マクドウェルは、つい先日観た『マイケル』にも出てました。主役を張ることはないけれど、いい味の中堅女優になってます。

 つい先日、イギリスで羊を使ったクローンが成功したとのニュースが世界中にセンセーションを巻き起こしました。各国の議会や学会でクローン技術を人間に使うことの是非や医療行為と倫理規定などについて、ヒステリックとも思える激しい議論が起こっているようです。

 同じクローン人間でも、この映画では生臭い現世の出来事ではなく、ドラえもん的なファンタジーとして描いています。ポイントはクローン技術そのものではなく、同じ容姿・同じ能力・同じ心を持った人間が複数いるという不思議さ。リチャード・エドランド率いるボス・フィルムのスタッフが、別々に芝居をするマイケル・キートンを、ひとつの画面の中に完璧に合成してみせます。

 この映画に登場するクローンは、同じ人間からコピーされていながら、それぞれ微妙に性格が異なっています。オリジナルの人物が持つ要素を基本的には残してはいるのですが、ゼロックスで複写した書類がオリジナルよりほんの少し歪んだりかすれたりしているように、クローンたちにも微妙な相違が生じる。主演のマイケル・キートンは、主人公のオリジナル、仕事人間でマッチョタイプの2号、女性的で細やかな神経を持つ3号、頭の弱い4号という4人の人格を演じ分けています。外見的には同じ人物という設定だから、メイクで人物を描き分けることができない。表情や仕種や台詞の抑揚だけで、今誰を演じているのかを瞬時にわからせてしまうキートンの演技力はすごいと思います。時折見せるワルノリぶりも、コメディアン出身であるキートンの個性でしょう。最近シリアスな役柄が多かったせいで、欲求不満気味だったのかもしれません。『ビートルジュース』を思い出させる、生き生きとした怪演ぶりです。

 アイディアや視覚効果は面白いけど、物語自体はいまひとつはじけない。クローン人間たちは記憶も性格もオリジナルとうりふたつの「人間」なのに、それを奴隷のように便利に使おうという主人公の考えに納得できない。このあたりは「ドラえもん」の方が、まだいろいろ考えているぞ。同じ人間が入れ替わり立ち代わり現れるドタバタぶりも、レストランの場面が面白かったぐらいで、あとはさしておかしくもない。芝居を別撮りして合成するという不自然さはあるにせよ、中盤のギャグシーンがもっと充実していてほしかった。


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