セイント

1997/05/21 UIP試写室
ヴァル・キルマー主演のアクション映画。エリザベス・シューも素敵。
特殊メイクで作り上げた変装の数々が見もの。by K. Hattori



 ヴァル・キルマーがハイテクを駆使した現代の怪盗に扮したアクション映画。厳戒な警備を潜り抜け、身につけた特殊技術とハイテク装備、口八丁手八丁のテクニックで目的を遂行する主人公の姿は、ひとりで『ミッション:インポッシブル』をやっているようなもの。カトリックの12聖人(セイント)の名を騙り、変装でそれぞれの人物になりきる様子が、この映画の見どころです。『ミッション:インポッシブル』では、トム・クルーズが別の役者を立てて変装したことにしている場面がありましたが、この『セイント』ではそんなズルをしない。正真正銘ヴァル・キルマー本人が、特殊メイクで変装しています。敵の大将に変装して本拠地に乗り込むところなど、デジタル合成を使ってひとりの俳優で演じた方がむしろ手っ取り早いんでしょうが、ちゃんとメイクでそっくりさんに仕上げているところには感心しました。

 低温核融合の方程式を盗み出そうとするロシアの極右マフィアと、方程式の秘密を持つ女性科学者を守ろうとする主人公の攻防を描いた物語です。夢の新エネルギーというアイディアは冷戦終了後に出てきた新しいアイテムですが、世界の秩序を破壊しかねない「お宝」の争奪戦というテーマ自体は古典的です。目的遂行のために相手に近づいた主人公が、ヒロインと恋に落ちるという展開も、スタローンの『暗殺者』などに見られる新味のないアイディア。要するに、話自体はあまり新しさがない。

 この使い古されたアイディアに命を吹き込んでいるのは、ヒロインの女科学者を演じたエリザベス・シューです。『リービング・ラスベガス』の好演がまだ生々しい印象を残している彼女ですが、今回の映画でもヴァル・キルマーに互角の芝居で挑みます。この手のアクション映画では、どうしてもヒロインが主人公の添え物、時によっては足手まといになりがちなんですが、『セイント』で物語を引っ張るのは、時にこのヒロインであったりするのです。僕は研究室で研究の成果を発表する彼女の様子に、まず感心しました。人間は緊張したり興奮気味の時にスピーチをすると、吸った息がうまく声にならなくて、台詞の途中で何度も息継ぎしたりしますよね。そんな雰囲気がじつによく出てます。スピーチの場面は映画の最後にもあるんですが、命のやり取りをする修羅場をくぐってきた彼女の声は落ち着いていて、ヒロインの成長ぶりを示します。この映画では、主人公と一緒にヒロインも大きく成長するのです。

 ヴァル・キルマーが彼女と恋に落ちる瞬間の、ちょっとうろたえた表情が素敵です。方程式を盗み出すため近づいたはずなのに、彼女の純粋な心に触れたとき、彼は傷ついた自分が癒されるように感じたのでしょう。方程式のメモを盗み出したとき、代りに主人公が残していったメッセージが悲しい。ロシアの空港でふたりが再会したとき、エリザベス・シューが「メモなんてあなたにあげたのに……」と悲しそうに訴えるシーンの心のすれ違い。なんともロマンチックなアクション映画です。


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