キングピン
ストライクへの道

1997/05/20 KSS試写室
ウディ・ハレルソンがアーミッシュの青年とボーリング大会優勝を目指す。
ビル・マーレーの怪演(快演)がこの映画の財産。by K. Hattori



 僕はビル・マーレーが好きなんですが、最近の『小さな贈りもの』『SPACE JAM』などはどうも納得が出来ないと思っていた。そこに登場したのがこの『キングピン/ストライクへの道』。今回は敵役としての登場で、そのチャーミングな憎たらしさは往年の『ゴースト・バスターズ』などを彷彿とさせます。ビル・マーレーのかわいさと憎たらしさってのは、「嫌な奴なんだけど、かわいいところもある」といった、部分としての存在じゃない。徹頭徹尾憎たらしい野郎が、憎たらしさを徹底して追及した結果、その向こう側に突き抜けたら、じつはその姿がかわいさに通じるんです。

 徹底して嫌味、徹底して意地悪、徹底して強欲、徹底して吝嗇、徹底して傲慢、徹底して好色、徹底して不遜、徹底して……と続くネガティブな人間性の向こうには、光り輝く人間性が見え隠れする。こうしたビル・マーレーのキャラクターを逆手に取ったのが、あの傑作『恋はデジャ・ブ』なんだよね。今回の役柄は最後の最後まで嫌な野郎で終るんだけど、やっぱり他のどんな役者がどんなギャグをかますより、ビル・マーレーのちょっとした口振りや、ちょっとした仕種の方が圧倒的に面白い。日本にはいないなぁ、こういうタイプの役者。

 ここまで書くと、まるでビル・マーレーが主演の映画かと思われそうですが、この映画で主人公を演じるのはウディ・ハレルソンです。この俳優は、こういうボンヤリした役をやらせると天下一品だよね。僕は『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のハレルソンより、『ハード・プレイ』の彼女に逃げられる男とか、金持ちの男に女房を取られる『幸福の条件』とか、兄貴に好きな女をかっさらわれる『マネー・トレイン』のハレルソンが好きだ。ビル・プルマンがいなければ、「ハリウッドのふられ虫」の栄誉はハレルソンで決まりなんだけどな。

 映画はハレルソン演ずる前途を嘱望された若きプロボーラーが、マーレー扮する悪どい先輩ボーラーにだまされて前途を閉ざされるが、それから10数年後、才能あるアーミッシュの青年を発掘してコーチとして再起を賭ける……、といった内容。監督は大馬鹿映画『ジム・キャリーはMrダマー』のファレリー兄弟。僕は前作を未見なんですが、この映画では生ぬるいギャグの連発が蓄積されて、苦笑いが哄笑に高められて行くという、不思議な感覚を味あわせてもらいました。

 主人公の少年時代、輝かしい青年期、挫折を経てすさんだ生活を送る主人公を見せるまでの導入部などを見る限り、この監督はそれなりに演出力や構成力のある人なんだと思います。クライマックスのボーリング大会なども、きちんと盛り上げるしね。こうした力のある人が、あえて中盤で大脱線を繰り返すのは確信犯なのでしょう。気に竹を継いだような物語の展開は気になりますが、無茶苦茶な展開を最後はうまくまとめて、爽やかな感動さえ与えてくれるほどです。予算がもっとあれば、中盤のドタバタがもっと冴えるのでしょうが……。


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