ロング・キス・グッドナイト

1997/05/11 日劇プラザ
ジーナ・デイビスとサミュエル・L・ジャクソン主演のアクション映画。
レニー・ハーリン監督は少しずつ上手くなってる。by K. Hattori



 監督レニー・ハーリン、主演ジーナ・デイビスと言うと、どうしても世紀の大駄作『カットスロート・アイランド』を思い出してしまう。ハーリン監督は出世作『ダイ・ハード2』の時から、派手で大規模で大味なアクション場面の連続で売っている人。『カットスロート・アイランド』は特に大味傾向に拍車がかかって、レニー・ハーリン度150%の映画に仕上がったのだけれど、今回の映画は従来の大味な持ち味をおさえ、スピード感のあるアクション大作を作る事に成功している。とはいえ、他の監督に比べ、ハーリンのアクション映画が大味さ2割り増しなことは否めませんけど……。

 総製作費100億円、その内シェーン・ブラックの脚本に5億円ぐらい払っているらしい。5億の価値があるかどうかは僕の判断するところではないけれど、この話はなかなかよくできている。記憶喪失の女性が殺し屋に狙われ、それがきっかけで女スパイであった過去を思い出すという展開は別に新しくない。『トータル・リコール』や『タイム・ボンバー』が、同じようなアイディアを先に映画化してますからね。新しいのは主人公が女性だという点だけですが、妻であり母でもある主人公が、戦いの中で「平和な家庭人」でも「政府の諜報員」でもない、新しいアイデンティティを確立して行く様子が面白かった。最後に子供が誘拐されてそれを助けに行くという展開は『トゥルーライズ』などにもあったけど、一度は子供を捨てようとした主人公が、それをきっかけに新しい自我に目覚めるという展開は新しいと思います。

 しかしそれより、この映画はキャラクターが面白い。目つきひとつで、サマンサとチャーリーを演じ分けるジーナ・デイビスの演技は見事ですし、サミュエル・L・ジャクソン扮するミッチ・ヘネシーという冴えない探偵も魅力的な男に描かれていた。これで悪役や他の脇役たちもキャラクターが立ってくれば、もっと面白くなったことは間違いない。これはレニー・ハーリン監督の今後の課題でしょう。次回作に期待してます。

 単純明快なプロットにわかりやすい複線が交差して、ハーリン監督の大雑把で大味な演出に物語が埋もれていない。なにしろこの監督は、物語が行き詰まると爆発、物語に調子が出てくると爆発、大事な複線を提示している場面でも大爆発をさせてしまう、ハリウッドの爆弾魔。緻密なプロットや微細な複線なんて、爆発の渦に巻き込まれて何がなんだかわからなくなってしまいますからね。この物語を単純すぎると批判するのは簡単だけど、このぐらい単純でないと、ハーリン監督の持ち味が生きてこないのです。だからこの物語はこれで正解です。

 レニー・ハーリンは『ダイ・ハード2』より『クリフハンガー』より『カットスロート・アイランド』より確実に上手くなってきています。ジーナ・デイビスがちゃんと美人に撮れていただけでも、『カットスロート・アイランド』より長足の進歩をとげたと言い切れます。演出に客観的な視点が出てきたってことですからね。


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