金色のクジラ

1997/05/05 有楽町朝日ホール
(日映協フィルムフェスティバル'97)
白血病の弟を救おうとするお兄ちゃんの姿を中心に家族の絆を描く。
岸川悦子の同名児童文学を映画化。感動した。by K. Hattori



 白血病と骨髄移植、医療を巡る家族の絆などを描いた映画としては、この映画の方が『マイ・ルーム』より面白いし感動的だった。物語が観客に伝えようとしているのは、骨髄移植という最新医療の実態と、骨髄バンクの必要性、登録の勧誘といったところでしょう。一種の教育・啓蒙映画であり、骨髄バンクの宣伝映画です。所々でどうしようもなく宣伝臭がするのはこの映画の欠点ですが、「骨髄移植さえすれば命が助かる。でも骨髄の提供者は少ない。だから骨髄バンクが必要だ」と論旨が明確でストレートだから、宣伝映画特有の強引さや回りくどさは感じない。テーマは現実的で切実なものだけに、この描き方には好感が持てるし、応援もしたくなる。

 病気の子供を抱えた家庭の苦しさや辛さが、じつにていねいに描写されていて、観ていて身につまされる。新しい仕事を任されたばかりで、子供を見舞ってやれない父親。子供に「明日は早く来るからね」と約束したのに、そんな日に限って残業を命じられてしまう母親。家にひとり取り残され、ひっそりと食事をするお兄ちゃんの寂しさ。夜中に薄暗い台所で食べる玉子かけ飯のわびしさ。それでも弟の身体や家族の苦労を気遣って、孤独に耐えるお兄ちゃんの優しさには涙が出るよ。

 小学校に上がるか上がらないかの年で、長期の入院を余儀なくされた子供の気持ちも切ない。面会時間終了の院内放送が流れ始めたとたん、見舞いに来ていた母親の手を握り締めて「帰っちゃやだ」と泣きじゃくる子供の姿には泣ける。放射線治療で身体の抵抗力がなくなり、無菌室に押し込められて、ガラス越し、インターホン越しにしか母親や家族と話ができないのも悲しい。無菌室の中でヒステリーを起こした子供を、ガラス越しに見守ることしかできない母親の気持ちを考えると、胸が締め付けられるようだった。

 僕自身が男だからかもしれないけど、父親の立場や苦労が、もう少しきちんと描かれていればよかったのに、とも思いました。映画を作る人たちって基本的に全員がフリーランスだから、勤め人の苦労がなかなか描けないのかもしれませんね。父親のエピソードで面白かったのは、「白血病の子供を持つ父親の集い」が居酒屋で開かれているという描写でしょうか。難病物の映画にはこの手の集会が必ず出てくるんですが、酒を飲みながら互いの苦労を話し合う場面は始めて見ましたし、なるほど日本ではこうなるのであろうなと、へんに納得もした。

 欲張っていろいろな要素を詰め込みすぎた部分も、感じないではありません。ボケかけていたおばあちゃんが手伝いに来たとたん、すっかり元気になってしまうというエピソードはいいけど、それを母親の勤め先にまで延長させてしまうのは余計だった。これは「老人問題」という別のテーマになってしまう。意欲は買うけどね。

 一般の映画館にかかることのないマイナーな作品ですが、機会があれば観ても損のない映画です。永島暎子、三浦浩一、田中健、余貴美子など、出演者も充実。


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