隠し砦の三悪人

1997/03/31 並木座
『スター・ウォーズ』にも影響を与えた黒澤明の傑作娯楽時代活劇。
僕が個人的に選ぶ黒澤映画ベスト3のうちの1本。by K. Hattori



 『スター・ウォーズ』のリバイバル公開を目前に、その原作とも言える黒澤の娯楽時代劇を再見。オープニングの千秋実と藤原釜足のコンビが、そのまま『スター・ウォーズ』のC3-POとR2D2に引き継がれているのがよくわかる。荒れ野の道中、仲違いによる別行動、それぞれに捕まってまた再開、……というくだりは、そのまま『スター・ウォーズ』でも踏襲されています。踏襲というより、ほとんどコピーといってもいいくらい。『スター・ウォーズ』には他にも黒澤映画からの影響があるはずだから、今度それを確認しようと思ってます。

 戦国時代、合戦に負けた国の侍大将が、お姫さまと軍資金を同盟関係にあった隣国まで脱出させる物語です。侍に三船敏郎。お姫さまに新人の上原美佐。目先の欲に目が眩み、危険な脱出行を手伝わされることになる百姓あがりの足軽がふたりに、黒澤映画の常連である千秋実と藤原釜足が扮している。主人公たち一行を追う敵方の大将に、『姿三四郎』や『わが青春に悔なし』など、戦前から戦後にかけて黒澤映画の主演スターだった藤田進が再登場。三船敏郎との一騎打ち場面で、堂々とした貫禄のある芝居を見せてくれます。

 三船敏郎はあまり芝居が上手な役者じゃないんだけど、この映画では共演の上原美佐もまったくの素人、藤田進もそんなに演技派ではないときている。この三人が並ぶと、棒っきれが転がしてあるような、ぶっきらぼうな芝居の応酬になってしまうんだよね。ラストシーンで藤田上原三船が正装して勢揃いすると、その時の邦楽風の音楽もあいまって、なんとも色気のない顔ぶれ。この映画は黒澤映画中でもベスト3に入る傑作娯楽時代劇だと思うんですが、最後の最後になって見せるこの「大根役者三人揃い踏み」は大きな傷だよなぁ。僕はこの場面になると、いつもちょっと白けます。

 この映画の見所は、やっぱり活劇(アクション)場面ですよね。二人の百姓が城の穴掘りに駆り出され、その晩に突然起こる人夫たちの大暴動。城の階段を一気に駆け降りる無数の半裸の男たちの、熱気と勢いの迫力。階段の下から人の群れに向かって打ち込まれる鉄砲にもめげず、じりじりと押し出してくる人の群れ。堰に溜まった水が堰の崩壊と同時に一気に流れ落ちるように、人夫の群れも一時の停滞で溜まったエネルギー爆発的に開放させ、一気に坂道を駆け降りて行く。この場面で見せる群集と鉄砲の掛け合いのリズムが、黒澤演出のリズムなんでしょうね。いつ観てもその迫力に圧倒されます。

 三船敏郎が先行する騎馬武者二人を馬に乗って追いかけ、猛スピードで走りながら馬上で斬り合いをする場面もすごい。走る馬のあぶみに十分体重を乗せて半ば仁王立ちになり、上段に刀を振りかぶったまま、じりじりと距離を詰めて行く三船。追いつくや素早く一人目を斬りふせ、さらに二人目の追跡に入るスピード感。このスリルとスピード感があるから、その後じっくりと見せる藤田進との槍勝負も映えるのです。緩急自在なんだよね。


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