ザ・クロウ

1997/03/12 松竹セントラル1
あまりにも鮮烈な印象を残した前作の前にはどんな映画も霞んでしまう。
ミア・カーシュナーの使い方が中途半端なのは残念。by K. Hattori



 ブランドン・リー主演の映画『クロウ/飛翔伝説』の続編。前作は主演俳優の事故死という痛ましいエピソードが、映画の黒いムードにいっそうの影を落とした怪しい傑作だった。あれはあれで完結した世界なので、今回の映画が続編といっても、直接話がつながるわけではない。この世に恨みを残して死んだ者が、カラスの超自然的な力を得てよみがえり復讐するというコンセプトを生かして、また新しい世界を作り出そうとしている。

 主演はフランスの若手俳優ヴァンサン・ペレーズ。僕は彼が注目された『シラノ・ド・ベルジュラック』や『インドシナ』を観ていないのだが、ソフィー・マルソーと共演したラブコメ作品『恋人たちのアパルトマン』は観ている。共演のミア・カーシュナーは、つい先日『エキゾチカ』の少女ストリッパー役を観たばかり。どちらも知らない役者ではないので、それなりの期待はしてました。してたんだけど……。

 前作のブランドン・リーはアクション俳優として訓練された人でしたから、復活した主人公がアクロバティックな身のこなしで悪人どもを次々血祭りに上げる様子に、本物のスピード感があった。ところが今回のペレーズはそうした肉体派のアクション俳優ではないため、活劇場面での動きがまるで普通の人間そのもの。動作がモタモタしていて、神懸り的な部分がないんだよね。魔法の力を授かったスーパーマンにはとても見えないのです。

 前作では殺された「恋人」の復讐のためによみがえった主人公ですが、今回は殺された「息子」の復讐のために水中から浮上します。話としては、やはり恋人のために戦うヒーローの方が存在が力強いと思う。父親が息子に捧げる愛と、男が恋人のために捧げる愛と、どちらが純粋なんだろうか。どちらが大きいんだろうか。そう比較してしまうと、僕はやっぱり恋人のために戦うヒーローに軍配を上げてしまう。息子は血を分けた肉親だけど、恋人は他人ですもん。他人のために死者の中からよみがえるなんて、これほど大きな愛はないでしょ。

 もちろん親と子の愛情も大きな物だけど、親子の関係は個別のエピソードであって、他人がそれについてとやかく口をはさむことを拒むようなところがある。男と女の愛情なら、自分自身の体験その他から敷衍しておもんばかることが可能なんですけどね。そうしたことも原因になって、物語の語り部であるミア・カーシュナーの扱いが中途半端になってしまったのです。彼女は単なる事件の傍観者ではなく、半ば当事者として物語に介入してくる。しかし「父親と息子」の固い絆の前では、彼女の割り込む場所などないのです。親と子の絆が強ければ強いほど、物語は広がりを失ってしまう。

 美術セットや衣装のデザインは、基本的に前作のイメージを踏襲しているようです。しかし、前作で印象に残る朽ち果てた教会のような、シンボリックなイメージがないのは残念。とにかく、前作がすごく良すぎたんです。それと比較されるのがパート2の辛いところだよね。


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