小さな贈りもの

1997/02/28 有楽町スバル座
『恋はデジャ・ブ』のビル・マーレーが象と一緒にアメリカ横断珍道中。
物語は荒唐無稽だが個々のエピソードが面白い。by K. Hattori



 主演のビル・マーレーは『ゴーストバスターズ』が代表作なのかもしれませんが、僕は『恋はデジャ・ブ』のような、小さくな映画に出演している彼が好きです。どう見てもハンサムとは言えないアバタの小悪党面なのですが、ずるがしこく立ち回ろうとする顔の下に、少年のように素直で純真な表情が隠れている。映画の規模や仕掛けが大きくなると、彼の持っている芸を発揮する機会が減ってしまうような気がします。

 『小さな贈りもの』は、そんなビル・マーレーの魅力が存分に発揮された映画です。プロの講演屋として活躍する彼のもとに、突然届けられた父の訃報。幼いころに死んだとばかり思ってた父が残した遺産は、古ぼけたトランクにつめられた身の回りの品と、3万5千ドルの借金、そして象のヴェラだった。厄介な遺産を押し付けられた彼が、象と一緒にアメリカ横断の珍道中。困難な旅とヴェラとのやり取りを通して、直接画面には登場しない父親の姿が徐々に明らかになってくる様子は、定石どおりの展開とはいえ心を打つ。次々降りかかるトラブルの中で、主人公は等身大の自分を再発見するのです。

 ずいぶんと粗い脚本で、最初に提示された物語の前提や複線が、途中で消し飛んでしまう点が多々ある。例えば、動物園の飼育係が払うと約束した3万ドルは、どこに消えたのか。主人公は借金をどうやって返したのか。婚約者の心が主人公から離れてしまったのはなぜか。父の思い出が詰まった遺品のトランクを途中で捨ててしまうのは解せないし、せっかく心が通じ合ったヴェラをすんなりとスリランカに送ってしまうくだりも、やけにそっけない。電話でしか連絡していない飼育係をすっかり信頼してしまうのも、もう少しエピソードを積み上げた方がいいだろうと思う。

 しかしそんな欠点を全部さっ引いても、この映画はやっぱり面白いのだ。何と言っても、象のヴェラが可愛い。『ジュマンジ』みたいにCGで作った象じゃなくて、きちんとトレーニングを受けた本物の象が、ビル・マーレーに負けない芸達者ぶりを見せるのがいい。生身の象が町の中を目茶目茶に壊しながら走りまわる姿なんて、それだけで映画的ではありませんか。

 僕がこの映画の中で一番好きな場面は、砂漠の中の小さな村で、洪水に流されそうになっているメキシコ人たちの小さな教会を救うくだり。村の救世主となった主人公と象が人々のもとを立ち去る時、静かに流れ始める「荒野の七人」のテーマ曲。黄色いリボンの騎兵隊の姿で象にまたがり、メキシコ人たちを従えての行進。崖の上のインディアン。インディアンの台詞が字幕付きなのもいいね。こういう古い映画へのオマージュに、僕は弱いのだ。それだけで評価のポイントが甘くなるもんね。

 『好きと言えなくて』のジャニーン・ガラファロが飼育係役で出演してますが、この使い方はもったいない。『評決のとき』のマシュー・マコノヒーが、ジム・キャリー風の怪演を見せますが、これにはびっくりするぞ。


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