流れ板七人

1997/02/08 丸の内東映
松方弘樹が梅宮辰夫の弟子? それは順序がアベコベでしょう。
ちぐはぐなキャストが最後まで尾を引いてる。by K. Hattori



 キャスティングに難あり。主演の松方弘樹はともかくとして、その師匠格の料理人に梅宮辰夫ってのはないだろう。また梅宮が後継者として指名した若い料理人役・東幹久も線が細く、ひとつの料亭を任される男にしてはひ弱そうに見える。梅宮と松方を比べれば、誰がどう見たって松方の方が格が上に見えるでしょ。東幹久については、同僚の料理人役・的場浩司に食われてしまってるよね。これは双方とも、配役を入れ替えればよかったんだ。主演を梅宮にして、先輩料理人を松方。弟子筋の若い料理人を的場にして、東を義理に厚い格下の料理人。こうするとスッキリとまとまる。ま、梅宮辰夫が主演の映画を撮る余裕なんて今の東映にはないから、このキャスティングはあり得ないんだけどね。

 こうした配役のねじれがあるから、料理人部屋の女将・いしだあゆみの主人公への恋慕も、僕の胸には伝わってこなかった。死んだ花板が巨大な存在であればあるほど、彼女の受けた痛手は大きくなり、その隙間を埋める存在としての主人公に寄せる女将の気持ちに同情が集まる。ところが死んだのが梅宮では、彼女の心にぽっかりと空いた穴に、誰も共感できないでしょう。これは料理人部屋で働く料理人たちについても、同じことが言える。梅宮が死んだ事がきっかけになって、同じ料理人部屋に属する料理人たちが全員路頭に迷うという設定に、どうしても説得力が欠けるような気がするのだ。

 そんな根本的な欠陥を持ちながらも、この『流れ板七人』は面白い。配役の難は最近の東映映画だけでなく、邦画全体についても言えること。要は程度の問題に過ぎない。この映画のキャスティングは確かにちぐはぐだが、それは『八つ墓村』も同じだ。そこに点に目をつぶってしまえば、この映画はそこそこ楽しめるはず。脇の人物まで気を配った脚本と、引き締まった演出がそれを支えている。脚本に難を言えば、梅宮演ずる花板と松方との過去が、映画からは見えてこなかった点だろうか。もっとも梅宮は早々に物語から姿を消すため、これはそんなに大きな傷にはなっていない。

 腕を競う料理人たちの世界を舞台にした映画ということもあり、料理がいかに美味しそうに描けるか、料理勝負の駆け引きやスリルもこの映画の魅力のひとつ。同じ料理を素材にした昨年の『美味しんぼ』に比べると、僕は『流れ板七人』の料理場面や料理の出来栄えに軍配を上げたい。調理場の活気や創意工夫が献立にそのまま反映してゆく様子が、よく描けていたと思う。

 映画は老舗の意地をかけた料理勝負をクライマックスに、そこに集う人たちの心意気や人生模様を並べてゆく。『八つ墓村』でダメの烙印を押された浅野ゆう子も、この映画ではわりと映えていた。点景としては悪くない女優なんだよね。すごく失礼な言い方なんだけどさ。

 流れ職人・いかりや長介の役どころはオイシすぎる。板場の隅で料理に舌鼓を打ついかりやがうらやましいぞ。ところで誰と誰をどう数えると、流れ板が七人?


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