シャイン

1997/02/07 九段会館
(DCスペシャルプレビュー)
オーストラリアのピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットをモデルに、
父と子の葛藤、音楽の持つ魔法のような力を描く。by K. Hattori



 昨年のサンダンス映画祭に出品されるや絶賛を浴び、映画を観たスピルバーグに「10年に1本の作品。アカデミー賞はこれで決まりだ!」と言わせた映画。地元オーストラリアのアカデミー賞では、最優秀作品賞、監督賞、脚本賞、主演男優賞など、主要9部門を独占している。監督はスコット・ヒックス。実在のピアニスト、デヴィッド・ヘルフゴットをモデルに、家族と芸術の間で揺れ動く男を描いた物語だ。

 アカデミー賞云々はともかくとして、この映画が素晴らしい作品であることは間違いがないだろう。作品の規模と映画の内容がぴったりとあっていて、冗長な部分も窮屈な部分もない。存命中の人物を描いた映画であるにも関わらず、脚本は自由に人物を解釈し動かしている。演出も繊細さと大胆さを併せ持ち、なかなか懐が深い。

 音楽を愛し、子どもたちに我流の英才教育を施そうとする父親と、そんな親の想像もできないくらい大きな才能に恵まれた息子の物語だ。息子は才能を広く認められて父親のもとを巣立ってゆこうとするが、父はそれを認めない。はじめは息子の留学を祝福しようとするのだが、いざとなるとパニックを起こして息子を手放せなくなってしまう。自分の手の届く範囲に息子がいないと、不安で不安でしょうがなくなる。戦争中に収容所で両親を亡くしたユダヤ人としての経験が、家族というものに対する過剰な思い入れを生んでいるのかもしれないし、自分の腕一本で家族を養ってきた自信や自負が、息子の成長と成功によって脅かされるのが怖いのかもしれない。

 僕はこの親子を見ながら、プロ野球のイチロー父子を思ってました。手塩にかけた息子が、今まさに自分を乗り越えてゆこうとする時、父親はどんな気持ちがするんでしょうね。それを素直に祝福できる親は幸せだけど、そこで心に傷を受ける人たちだって多いはずです。ヘルフゴット父子もそこで失敗した。互いに傷つけあって、息子は一生負わねばならぬ精神的なダメージを受けた。

 精神の病に侵された主人公が、どうやって救われるのかがこの映画のテーマです。ピアノ演奏を通じて精神に傷を負った主人公が、同じピアノ演奏を通じて新しい幸福を見出す様子が、わずか20分ほどの時間で、じつに感動的に描かれています。彼は自分の演奏に対して、惜しみない拍手を送る聴衆たちに救われる。レストランのピアノで演奏する、超人的な「熊蜂の飛行」に対して送られた拍手が、彼のピアノ演奏を父親の呪縛から解き放つきっかけになるのです。演奏活動再開後、初のリサイタルで満場の客席から送られる拍手が、彼を本当の意味で父親から開放したのでしょう。

 映画の中で何度か登場する演奏シーンは、どれもすごい迫力。ピアノ演奏シーンでハイスピード撮影している映画なんて、僕ははじめて見ました。鍵盤の上をスローモーションで動く指先のクローズアップ、飛び散る汗、周囲の音が消えて鼓動だけが聞こえる演出など、まるでアクション映画そのままです。


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