パリのレストラン

1997/01/15 シャンゼリゼ
30年続いたレストラン閉店の夜と、そこに集う人々を描く人情劇。
監督ローラン・ベネギの自伝的作品。by K. Hattori



 今日で閉店というレストランに集まった、常連客と店の主人夫妻、その息子夫婦と友人たち。三々五々集まってくる客たちを描写するオープニングから、客が帰ってゆくまでをしっとりと描いて、ドラマチックではないけれど、心温まる映画になっている。集まってきた客たちの人生模様や、店の開店から閉店までの歴史、常連客たちの思い出、時代背景などを織り交ぜて、空間限定映画にもかかわらず、語り口が単調になることはない。

 ひとつの場所を舞台にして空間移動を制限するかわりに、時間を移動させるという手法は面白いと思った。ただそれならそれを徹底して、カメラが店の外に出ない方が面白かったのではないかと思う。客が集まってくるところから客が帰るところまで、回想シーンも含めて完全にカメラを店内から出さないことも可能だと思うんだけどな。空間的には広がりのない、舞台劇みたいな作品だから、逆に徹底して空間を限定することで、時間の移動のダイナミズムが生まれるような気もするんだけど。

 登場する役者たちにほとんど馴染みがなくて、それが逆にこじんまりとした家族経営のレストランの雰囲気を生み出してました。シェフとその奥さんと厨房の3人だけで、あれだけの客をさばくんだから大したモンです。料理が次々に出来上がってゆく場面は、料理のシズル感がたっぷり。すごく美味しそうです。すきっ腹でこの映画を観たら、たぶん物語なんて頭に入らなくなってしまうでしょう。もっとも、たとえ空腹でなかったとしても、この料理場面にはドキドキするはず。僕はこの映画を観る直前にチャチな食事をしていたことが、なんとなく情けなくなってしまったよ。

 登場人物ごとにいろんなエピソードがあるんだけど、どれも印象に残るということがあまりない。エピソードとエピソードがからまりあって大きな物語を作るわけではないし、ある人物に起こった出来事が他の人物に波及してゆくわけでもない。シェフが店を閉める理由は終盤に明らかにされるんだけど、それも謎解きめいた快感を与えてくれるわけではない。むしろこうした人間同士の淡い交わりが、この映画の持ち味でしょうか。

 結婚した男が、妻を連れてレストランを訪れる話が出てきますが、映画の中盤で元恋人と妻が友達になってしまうくだりは面白かったな。自分の娘のような年の女の子に恋してしまう厨房の出稼ぎ男の話も素敵だし、シェフが旅行中に浮気した女の子が、店を訪ねてくる話も面白かった。こうしたエピソードの数々が、観る側にこの映画に対する淡い好感を抱かせるんだよね。

 映画はローラン・ベネギ監督の自伝的小説をもとにしたもので、監督の父親も映画に出てくるシェフと同じ理由で店を閉めたのだそうです。本来なら中心になるべき両親と息子のエピソードがやけにそっけないのは、ベネギ監督の照れがあるのかもしれませんね。特別ドラマチックではありませんが、美味しいものを食べた後のように、お腹の底からポカポカと温かくなる映画です。


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