サラリーマン専科
単身赴任

1996/12/24 新宿松竹
(クリスマス特別試写会)
添えものBプログラムの喜劇映画としてもセンスが古すぎる。
単身赴任をちゃんと描けばもっと面白くなったはず。by K. Hattori



 原作・東海林さだお、監督・朝原雄三、主演・三宅裕司のシリーズ映画第2弾。脚本には山田洋次の名前も見える。僕は前作を観ていないのだが、寅さん映画の添え物作品としては、こんなもんじゃないでしょうか。ただし、今回は同時に上映するのが寅さんではありませんから、この映画にかかる重圧は結構大きな物なのかも。案外松竹は、「こんなことなら『釣りバカ日誌』を簡単に独立させるんじゃなかった」と悔やんでいたりしてね。

 三宅演じるサラリーマン一家のホームドラマです。今回はタイトルにもある通り、東京の本社勤めだった主人公が、大阪支社の営業部に転属になり、愛する家族を東京に残して単身赴任するという内容。一人暮らしをはじめた主人公と、萬田久子演ずるマンションの隣人とのエピソードが物語の中心になってます。ところがこの映画、物語の筋立てといい、ギャグのセンスといい、古臭いことこの上ない。博物館の陳列ケースから取り出してきたようなシロモノなのにはびっくり。そこそこ笑わせてくれるのですが、その内容は並木座で昭和30年代の映画を観ているような、大らかな笑いなのですね。今時これを臆面もなくやってしまうとは、松竹も奇特な会社です。

 主人公がそうと知らずにたまたま助けた人物が、取引先の社長。そのコネを使って、主人公が会社を助けるという他愛のない、しかも使い古されたプロットで、物語を延々引っ張るのは苦しい。観客は藤岡琢也が登場した時点で、この映画の結末までを正確に予言できたはずだ。こんなものは最後の20分くらいで、無理矢理取って付けたように持ってきてもいい話だ。もっと主人公を困らせ、隣室の美女への複雑な気持ちも募り、進退極まったところで藤岡琢也が登場すれば、拍手喝采だったのにな。

 三宅と萬田が親しくなる部分がちょっと弱い。迷いネコはきっかけとしては面白いけど、二人が親しくなって行く過程では、もうひとつやふたつ後押しになるエピソードが必要だと思う。それなしに萬田久子の婚約者に扮し、彼女の実家を訪ねる話が入るから、これには違和感を持った。第一このエピソードは面白くもおかしくもないし、全体の中でバランスが著しく悪くなっています。未婚女性のこんなにプライベートなところまで足を突っ込んで、自分の家族に対して何ら後ろ暗いところを感じない主人公の鈍感ぶりも、僕には理解できなかった。

 そもそも、東京出身の主人公が大阪で苦労する描写だけで、1時間や1時間半の喜劇は作れるはずなんです。僕は何度も転職していますから、転勤して新しい職場に入る主人公の立場や気持ちが何となくわかる。それだけに、これはちょっと物足りない。言葉の問題、商習慣の違い、慣れない仕事での気苦労、家族と離れたストレス。こうした身近な問題をすべてすっとばして、隣室の美女とのエピソードだけでお茶を濁したのは脚本の手抜きではないのか。現在最高の漫才コンビ・オール阪神巨人を出しながら、二人に掛け合いをやらせないのももったいない。全体に、かなり欲求不満の残る映画です。


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