グース

1996/12/22 みゆき座
アンナ・パキンがグースの群れを先導して北アメリカを縦断。
実話をもとにした感動的な家族のドラマ。by K. Hattori



 映画興行やCFの世界では「子供と動物には勝てない」とよく言われます。どんなに良質のドラマも、子供や動物が主役の凡作に太刀打ちできない。まして相手が「子供と動物」であれば、なおさらのこと。『グース』は実話をもとにした映画です。ただし、モデルになった話には子供が登場してません。カナダの彫刻家が、動力付きカイトでカモの群れを先導するというだけの話。(もちろん、それだけでも凄いことなんだけど。)それを映画化するにあたって、「動物だけでは弱い。動物と子供だ!」と決心する映画製作側の、安易ではあるがしたたかな戦略が図にあたり、この映画はファミリー向きの佳作に仕上がっています。

 主演は『ピアノ・レッスン』の演技でアカデミー助演女優賞をとったアンナ・パキンと、『スピード』でキアヌ・リーブスの相棒役を演じたジェフ・ダニエルズ。自動車事故で母親を失ったパキンが、カナダに住む父親のもとに引き取られるところから物語が始まります。自動車事故の場面はニュージーランドという設定になっていますが、これは『ピアノ・レッスン』に敬意を表しているのでしょうね。映画ファンにはうれしい遊びです。

 長く離れていた父親とのギクシャクした生活。芸術家である父親の周囲にいるのは、一風かわった変人ばかり。父親にガールフレンドがいるのも、思春期の少女にはちょっと気に食わない。このあたりの描写は定番なんですが、奇をてらうことなくきちんと描かれています。定番の描写を定番通りにこなすことが、こうした映画でどれほど大切なことか。それがわかっていない映画監督が多いだけに、こうしたお決まりの描写がかえってうれしい。

 この映画にあるのは、母親を失った少女が心の傷を癒してゆく過程、父親との確執と和解、少女の成長と自立、といったテーマです。こうした一切をきれいに解消してくれるものとして、グースたちに渡りを教える旅がある。この旅を通して、子供は自ら守る者を持つことで心の傷を癒し、父と子は絆を深め、最後は父親に見送られてたったひとりの旅に出る。「飛行機を使って鳥に渡りを教える」という「実話の力強さ」があるからこそ、ここまでお決まり通りに物語を膨らませても白々しくならない。

 映画に登場するグースたちの可愛らしさったらなくて、しかもこれがほとんど特撮なしの実物。こういう映画を観るたびに、彼の国の動物トレーナーの優秀さに舌を巻く。飛行訓練をしている親子の後ろを、グースたちが追いかける場面には、思わず感動して涙がこぼれます。

 グースの羽を切ろうとするレンジャーが悪者に描かれすぎているとか、ラストシーンは風景をきれいに撮ることを目指すあまり、不自然に低空で飛行させているなど、気になる場面がないわけではない。終盤になるとそれまでの抑えた演出が消えて、やや流され気味になるのは欠点だ。もうすこし少女の成長ぶりに絞り込んだ演出がほしかった。ま、そんな欠点を吹き飛ばすぐらい、グースとパキンのからみがよかったから許しちゃうけどね。


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