シャロウ・グレイブ

1996/12/17 シネ・ラ・セット
裏切ったり出し抜いたりすることに躊躇しない現代の若者像が、
古典的犯罪スリラーを今風の青春劇にしている。by K. Hattori



 タイトルの「Shallow Grave」は「浅い墓穴」という意味。この言葉は主人公たちが死体を埋める穴が浅かったというだけでなく、彼らの結束や友情の底の浅さをも象徴しているのでしょう。監督は『トレイン・スポッティング』も大人気のダニー・ボイル。主演はケリー・フォックス、クリストファー・エクレストン、エワン・マグレガー。特に誰が主人公というわけでもないのだが、あえて言えば新聞記者アレックス役のマグレガーに注目したい。この若い役者はボイル監督の『トレイン・スポッティング』にも出演しているし、次回作『A Life Less Ordinary』にも出演するそうですから注目です。

 仲のよいルームメイト3人が新しいルームメイトを募集したところ、新入りの中年男は大金入りのトランクを抱えたまま変死。3人は死体を処分して、金をネコババしようと決心する。犯罪がらみの身につかない大金が仲間の結束を揺るがし、最後は破滅に向かうというお決まりの展開は新しさがない。死体を処分するのに右往左往する様子はグロテスクな笑いを誘うけど、こうした種類の笑いはヒッチコック映画にもしばしば登場していました。最も損な役回りを演じた気の弱そうな男が、追いつめられて豹変し、逆に他の二人を支配してゆくという展開も、特別ユニークなものだとは思えません。

 古臭いプロット、手垢のついた人物配置、さして新鮮味のないどんでん返し。平凡な監督が演出したら、酷評されかねない内容です。しかし、この映画はそうした古典的スリラー映画の素材を、いかにも今風に料理している。登場人物たちのキャラクターが生き生きしているし、ファッションやアパートのセットデザインも洒落ています。映画を観た観客なら誰だって、あのアパートに住んでみたいと思うでしょう。映画冒頭のルームメイト面接場面で、3人の結束の強さや高慢さ、意地の悪さをたっぷりと見せますが、彼らの自信もプライドもすべて、このアパートあっての物なのです。

 犯罪映画にもかかわらず、全体にものすごく清潔で、ひんやりとした冷たさを感じさせる画面。繰り返し登場する、水槽の中のトランクを水中から見上げるカットも、そうした印象を強めているし、人間を殺す場面より死体をバラバラにする行為に重きを置いたエピソードの組み立ても、冷たい印象を強めます。ソファーに並んで座る人物を俯瞰気味に正面から捉えたカットなど、清潔さや冷たさを通り越してシュールな印象さえ与える。

 金を守るために屋根裏に寝泊まりする会計士のデビッドは、天井にドリルで穴を開けて部屋の中の二人を監視します。デビッドに金を使う意志はない。彼はただ金を守るためだけに二人を監視する金の奴隷です。これは間接的に、金が人を監視しはじめたとも言えるでしょう。

 3人の間の駆け引きが衝突し、すれ違い、最後は殺意にまで高まってゆくスリル。互いが互いを出し抜こうとしながら、最後は全員が裏切られる定石通りの展開は安心できる幕切れ。古典をきちんと消化してます。偉い。


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