誘惑のアフロディーテ

1996/12/15 松竹セントラル2
今年観た新作洋画の中では3本の指に入る傑作コメディ映画。
ミュージカル風の演出に思わずニヤリとする。by K. Hattori



 『ビューティフル・ガールズ』でマット・ディロンの恋人役を演じたミラ・ソルヴィーノが、心優しい娼婦を演じるコメディ映画。監督・主演はウディ・アレン。その妻役に『死の愛撫』での強い印象がいまださめないヘレナ・ボナム・カーター。彼女と浮気する画廊オーナーに『ロボコップ』『スクリーマーズ』のピーター・ウェラー。アレンの心を代弁する良心の声であり、狂言回しでもあるコロスのリーダー役として、『アマデウス』のサリエリ役でアカデミー賞をとった名優F・マーレー・エイブラハムが出演するなど、最近のアレン映画の例に漏れない豪華なキャスティング。『ビューティフル・ガールズ』で恋人の家の前に雪山築いていたマイケル・ラパポートも、ボクサー役で出演しています。

 ウディ・アレンと言えば「ニューヨークから一歩も出ない偏屈な映画監督」というイメージが強いのですが、この映画は冒頭からイタリアで大ロケーション撮影。ローマ時代の遺跡の上にコロスがぞろぞろ登場して、これから演じられる物語について解説するという趣向。このコロスたちは物語の随所に登場しては、アレンの行動にアドバイスを与え、茶々を入れ、冷やかし、嘆き、哀しみ、喜びを共にし、歌をうたう。それどころか、コロスのリーダーや盲目の予言者ティレシアスは、物語に積極的に介入してきさえする。

 こうした第三者の存在が、映画の中に舞台劇風の効果を生み出し、物語にファンタジックで優しい味わいを与えている。こうしたアイディアは、とかく発想だけが先走って物語から浮き上がったものになりそうなんだけど、この映画の中ではじつに効果的。ニューヨークと屋外劇場のカットバックや、コロスの合唱がなかったら、この映画の魅力は4割減でした。

 物語の随所に効果的に挿入されるスタンダード曲の数々。レストランの場面で流れる「Manhattan」なども心憎いのですが、リンダとケヴィンのデートの場面でコロスたちが歌うコール・ポーターの名曲「You Do Something to Me」や、エンディングの「When You're Smiling」に、ミュージカルファンである僕の顔は一気に緩みます。最後はコロスがタップ踏んでたもんなぁ。

 ウディ・アレンのジャズ好きは昔から有名。何しろ自分のライブのために、アカデミー賞の授賞式すら欠席してしまう人ですもんね。今回の映画を観ると、彼はミュージカルの素養もある人だってことがよくわかる。

 ということで、僕は彼の次回作『Everyone Says I Love You』が早く観たくてしょうがない。これは完全にミュージカルで、出演はアレン本人以外に、アラン・アルダ、ドリュー・バリモア、ゴールディ・ホーン、ジュリア・ロバーツ、ティム・ロス、ナタリー・ポートマンなど、今回以上の超豪華キャスト。これが全編、歌って踊って……と考えただけでめまいがします、よだれが出ます。早く観たい観たい観たい! アメリカではもう上映が始まっているんだよな。うらやましいぞ!


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