Crying フリーマン

1996/11/24 新宿トーア
日本でも人気のあった同名コミックをハリウッドで映画化。
出資は日本だから日本映画ですけどね。by K. Hattori



 雑誌などには『クライング・フリーマン』と書いてあるけど、映画開始前のタイトルは『Crying フリーマン』になってます。原作は小池一夫と池上遼一がビッグコミック・スピリッツに連載していた同名コミック。僕は原作も読んでいましたけど、これってもう10年以上前のことなんですね。人気コミックを海外で映画化するというと、最近は『北斗の拳』がありました。ずっと昔には『ベルサイユのばら』があったよね。

 今回の映画は、製作資本が東映・フジテレビ・東北新社ですから、完全な日本映画です。ただし、映画の製作現場は完全に現地スタッフがイニシアチブを握っていたようで、日本が舞台になっても風俗考証が適度に無茶苦茶。ちゃんとアメリカ製の日本描写になっています。こういう誤った日本のステレオタイプな描写をみると、少し安心してしまうのはなぜでしょうね。「どうせ日本のことは日本人にしかわからねえよ、ウヒヒヒヒ」という屈折したナショナリズムなのかなぁ。

 オープニングタイトルは素晴らしい。男の肉体に彫り込まれた龍の刺青が、息づき、うごめき、やがて天高く舞い上がってゆく様子をCGで描いているのですが、これはドキドキしました。打楽器を多用した音楽も、ムードを盛り上げてくれます。ただし、本編にあらわれる主人公の刺青が、あまり美しくなかったのは気になった。べたっとした描画で、陰影に乏しくて安っぽい。東映には刺青専門のスタッフがいるんだから、そこだけでも協力して上げればよかったのに。全身の龍の彫物こそ、主人公がフリーマンである証。殺し屋稼業から足を洗えぬ主人公の悲しい運命を象徴する大切なものなんだから、立ち回りの最中に色が剥げて来るようじゃ困るんだよね。

 主人公フリーマンを演じているのはマーク・ダカスコス。馴染みのない顔ですが、IMDbで調べたら『D.N.A.』にも出演していたようです。(たぶんぬいぐるみのどれかでしょうけど。)主人公は一応日本人という設定なんですが、ダカスコスのオリエンタルな風貌もあって、無理して見ればそう見えなくもないかなという感じ。ヒロインはジュリー・コンドラ。加藤雅也と島田陽子がフリーマンと敵対するヤクザ夫婦を演じていて、案外いい味だしてます。導入部では「ハリウッドで日本人といえばこの人しかいない」マコが組長役で出演し、年期の入った貫禄ある芝居を見せます。

 フリーマンと呼ばれる殺し屋が敵対するヤクザ組織を壊滅させ、愛する女のために自分の組織をも裏切るというのが物語の骨格。この辺りは、フリーマンを愛した女が暗殺組織に飛び込むという原作より、ずいぶんとマイルドで普通のお話になっている。ヤクザとの死闘はそれなりに面白かったんだけど、裏切ったフリーマンを許さない組織の非情さは希薄。凄腕の殺し屋が組織から送り出されてこそ、愛するものを守るためにただひとりで戦う孤高のヒーロー像が浮かび上がってくると思うんだけどな。その点で、終盤がちょっと生ぬるくなっている。


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