サムバディ・トゥ・ラブ

1996/11/23 シネマ・カリテ1
ロージー・ペレスの魅力がぜんぜん生きていなくて散漫な印象。
助演陣の豪華さがそれに輪をかける。by K. Hattori



 出演者は超豪華。ハーベイ・カイテル、アンソニー・クイン、スティーブ・ブシェミ、タランティーノ、サミュエル・フラーなど、強烈な個性の持ち主がぞろぞろ。そんな中で、主演のロージー・ペレスとマイケル・デロレンゾがかすんでしまった。主役たちが弱い物語は、個性的な脇役たちに翻弄され、蹂躪され、引き裂かれて、見るも無残にズタズタボロボロ。僕はあまり面白いと思わなかった。唯一の見どころは、スティーブ・ブシェミの妖艶な女装姿。これが結構似合っていてびっくり仰天。僕が客ならブシェミと踊りたいくらいです。

 そもそも、この映画ではペレス演じる主人公がぜんぜん可愛く描けていない。ロージー・ペレスはキーキー声を張り上げる独特のキャラクターで、かの「フォービドゥン・ハリウッド」では下品な女優ナンバーワンに上げられていたひと。その下品さを庶民的な親しみやすさ、さばけた気安さ、正直に思ったことを口にしてしまう素直さに化けさせるのが、映画の不思議さであり魅力でしょう。『ドゥー・ザ・ライト・シング』『ハードプレイ』『ナイト・オン・ザ・プラネット』『夢の降る街』。どれも彼女のそうした魅力が生きていた。

 ところが、この映画の彼女は最初から最後まで、がさつで下品なんだよね。アレクサンダー・ロックウェル監督の1994年作品。『イン・ザ・スープ』の監督だというが、僕はその映画を未見。94年と言うと、『夢の降る街』でペレスがニコラス・ケイジの奥さんを演じていた年ですね。あの映画のペレスは、欲にかられて法廷で正々堂々と偽証する妻役を、憎々しげに、しかし伸びやかに演じていて面白かったんだけどなぁ。

 『サムバディ・トゥ・ラブ』でペレスが演じているヒロインは、場末のクラブでダンサーをして働いています。入り口で男の客が1枚1ドルのチケットを買って、ダンサーと1曲踊るたびにチケットを1枚ずつ渡すのです。こういうダンサーを、タクシー・ダンサーと言うそうです。社交ダンス教室なども、似たようなシステムになってますね。『Shall we ダンス?』に出てきましたが、そのオリジナルはアメリカのこうしたダンス場のシステムにあったのかもしれませんね。タクシー・ダンサーという職業はアメリカでもほとんど滅んでいて、映画の中ではサミュエル・フラーが「まだそんなものがあったのか!」と大げさに驚いていました。

 マイケル・デロレンゾ演ずるメキシコ人の少年がペレスに一目惚れすることから物語が動き始めるんですが、彼の恋心も、彼がペレスに恋する理由もあまり納得の行く形で描かれていないため、物語がギクシャクしてしまう。この辺りはもっとましな描き方がなかったんだろうか。デロレンゾが何を考えているのか、僕にはわからん。

 二人でレストランに行く場面で、少しだけですが彼女のソロダンスが見られます。ペレスはもともと振付師ですから、このダンスはなかなか見ごたえがありますよ。この映画の中で、彼女がもっとも輝いている瞬間です。


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