学校II

1996/11/10 丸の内松竹
西田敏行主演、山田洋次監督によるシリーズ第2弾。
養護学校を舞台に永瀬正敏が奮戦する。by K. Hattori


 タイトルは『学校II』だけど、夜間中学を舞台にした前作の続編というわけではない。前作でも主演の西田敏行は、今回北海道の高等養護学校の教師に扮して大活躍。同僚教師役のいしだあゆみや永瀬正敏、生徒役の吉岡秀隆共々いい味の芝居をしている。前作『学校』は夜間中学という場所を通して、現代日本の社会や教育システムを俯瞰して見せる映画でした。それに対し、今回の映画はひとつのエピソードを掘り下げてゆく、顕微鏡か虫眼鏡のような視線の映画です。

 卒業を間近にして学校から行方不明になった二人の生徒を、西田と永瀬が車で追いかけるロードムービー風の物語です。その間に、二人が入学してからのエピソードがうまく挿入されている。学校に集う生徒たちのエピソードを断片的に配置した前作『学校』に比べると、登場人物を絞り込んだことでまとまりのある映画になっていると思います。「教育の主体は子どもたち自身なのだ」というテーマが明確な分、観た人たちは作り手側の提示したテーマに素直に食いつける映画でしょう。映画の終わりに永瀬演ずる若い教師が、「学校ってなんですか」と問いかけますが、その答えは映画の中に既に描かれているような気がします。

 映画に描かれている学校や教師の姿は、ちょっと理想化されすぎているような気がしたんですが、こうしたキャラクター造形は、山田監督の綿密な取材に基づいたものなのでしょう。しかし、障害児たちの教育に身体ごとぶつかる西田やいしだのガンバリぶりを見て、観客が少し身を引いてしまうのも事実。「私にはとてもあんなことはできない」「彼らは特別な人たちなのだ」「偉い先生たちだなぁ」とついつい思ってしまう。そこでこの映画には、物語と観客との橋渡し役に、永瀬正敏演じる新米教師を置いてくれた。彼の悪戦苦闘と成長ぶりに、多くの観客が感情移入するはずです。

 永瀬演ずる教師は、もともと普通の高校で教鞭を取る事を望みながら、どういうわけか養護学校に赴任してきてしまった人物です。「3年ぐらい腰掛けで擁護学校教師をした後、普通の高校に転任したいと思っている」といういしだあゆみの指摘は、多分彼にとって図星でしょう。生徒が垂れ流す糞尿の後始末をしながら、仕事に対するやる気も自信もすべてなくしてしまいそうになる永瀬を見ていると、観客は思わず彼の境遇に同情してしまいます。そんな永瀬が3年の教師生活を通して、ぐんぐん成長してゆく。「あんな子達に学校生活は無理だ。家に帰す方がいい」と言い放ったことのある若い教師が、生徒の卒業式で巣立ってゆく生徒たちの行く末をおもんばかって思わず涙を流す姿は感動的でした。

 本筋からは全然関係ないのですが、映画の中に登場する音楽の場面が素敵だったので、記憶のために書き留めておきます。ひとつは生徒たちが学校を抜け出して見に行く安室奈美恵のコンサート。もうひとつは、生徒たちが車の中で「風になりたい」を歌う場面が印象的でした。


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