ザ・ロック

1996/10/27 日劇東宝
キャラクターの面白さ、アクションの切れ味、適度なユーモア、
悲壮なまでの忠誠心、家族に対する愛情。傑作。by K. Hattori


 マリオンでの上映がそろそろ終わるという日曜日の最終回で、いまだ立ち見が出る盛況ぶり。この映画なら立ち見もそう辛くないだろうという、抜群に面白いアクション映画だった。銀座地区では11月からニュー東宝シネマ1での上映が始まるから、特に急ぐ必要もないんだけど、とりあえず日本劇場の大画面で観ておきたいと思って足を運んだのに、なんと今週から上映されている『八つ墓村』と劇場を入れ替えられて日劇東宝での上映。なんだかだまされたような気分だなぁ。列のお尻の方に並んだ割には、いい席で座ってみられたからいいけどね。

 オープニングタイトルに重なる冒頭のシークエンスが力強く、物語に一気に引き込まれる。エド・ハリスは軍人を演じるとはまるよなぁ。軍の施設から毒ガスミサイルを強奪する描写の緊迫感は、それだけで1本の映画を観たような充実ぶり。強奪グループが警備の兵を射殺するのではなく、麻酔で眠らせているという説明もあって、彼らが流血を好まぬ紳士たちであることがわかる。アルカトラズで観光客を人質に取るときも、小学生の見学グループだけは先に脱出させている。政府に対してサンフランシスコを毒ガス攻撃すると脅している身でありながら、それでもアメリカ合衆国の軍人であり続けようとするエド・ハリスの矛盾した行動の中に、彼の止むに止まれぬせっぱ詰まった立場が透けて見えます。

 こうした彼の苦しさが頂点に達するのは、アルカトラズに潜入した海軍特殊部隊とシャワールームで撃ち合う場面。武器を捨てて投降しろと呼びかけるハリスに、潜入チームのリーダーは「合衆国の軍人としてそれはできない」とつっぱねる。共に同じ国に忠誠を誓い、同じ憤りを胸に抱きながら、今この場所で銃を突きつけ合わねばならぬ両者の対決は、この映画の中でもっとも悲壮な場面でした。目の前で次々と倒れてゆく仲間たちを目の当たりにして、自分も命を落とすとわかっていながら弾丸の中に身をさらす若い兵士も気の毒でした。

 アルカトラズ潜入組の生き残りふたり、ニコラス・ケイジ演ずる化学者とショーン・コネリー演ずる元英国諜報部員の活動動機は、最初は国のため、命令されて、強いられてだった。ところが潜入した海軍特殊部隊が全滅して命令系統が遮断されてからは、自分たちの家族を守るため、彼ら自身の判断で行動し始める。逆に言えば、サンフランシスコに彼らの家族がいなければ、彼らはあそこまで危険を冒して働いただろうか? 仮に彼らが命懸けで働いたとしても、国のため、組織のために、命を投げ出す男たちは、今の時代にはヒーローにはなり得ない。コネリーやケイジのキャラクターが魅力的なのは、彼らが「自分の家族を守る」という、観客の誰もが持ちうる素朴な感情をベースに動いているからだろう。

 サンフランシスコ全市を人質に取ったエド・ハリスたちの身代金要求に対し、アメリカ政府は一瞬たりともそれを支払う可能性を検討しない。テロに対するアメリカの立場は、相手が誰であろうと一貫しているんだなぁ。


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