寶の山に入る退屈男

1996/09/07 フィルムセンター
昭和13年製作。市川右太衛門主演の旗本退屈男シリーズ。
武田家の埋蔵金を巡って退屈男が大活躍。by K. Hattori


 市川右太衛門演じる元禄のスーパーヒーロー、旗本退屈男こと早乙女主水之介。常にきらびやかな着流しの着物姿で、額にはトレードマークとも言える天下御免の三日月傷。自分で自分のことを「退屈男」と名乗り、刀に物言わせて事件に首を突っ込む自己顕示欲の強い男だ。シリーズ何作目だか知らないが、昭和13年のこの作品では、秩父山中に残された武田家の軍資金百万両を巡る地図争奪戦の中で退屈男が大活躍。ちなみに「寶」は「宝」の旧字だそうで、僕は読めませんでしたが昔の観客には読めたのかなぁ。

 金額が大きい割には話の規模が小さくこじんまりまとまってしまったのは不思議。百万両と言えば使いようによっては幕府の足場を危うくしかねない額で、その行方には直参である退屈男も危機感を持つべきではなかろうか。ところがこの映画では百万両を使った幕府転覆の陰謀といったきな臭さを巧妙に避け、大名と盗賊の地図争奪戦、地図の継承者である武田家元家臣と、その娘の仇討ちなどに話をずらせてしまう。見事山中にその姿を現わした百万両の小判も、「多くの無念を残して死んだ男たちのためにも百万両は山に埋めてしまおう。ハッハッハ」で済ませてしまう。おい、それでいいのか。幕府に届け出るのが本筋じゃないのか。こんな無茶苦茶が許されるのが、退屈男の世界なのであろう。

 この映画では相手に不足があってか、退屈男の「諸羽流正眼崩し剣の舞い」が見られなかったのは残念。そのかわりと言っては何だが、妹菊路の恋人である霧島京弥の揚心流小太刀は大活躍。敵の刃を間一髪の間合いでかわす京弥の身の軽さ。女みたいな顔して、なかなかの使い手です。迫力はぜんぜんないけど。

 退屈男の剣戟としては、料亭での騙し討ち場面があるんだけど、これは数十人の敵を向こうに回して剣を振るいバタバタとなぎ倒して行く。テレビ時代劇で毎回クライマックスに登場するのと同じような作りですけど、殺陣は立体的で太刀筋も変幻自在。袈裟に斬る横に払う突くなど、バラエティに富んだ殺陣を見せる。こうした場面は、今のテレビ時代劇を作るときも参考になると思うんだけどなぁ。右太衛門は大刀を長く構え、舞うように敵の間を駆け抜ける。一挙手一投足、太刀の一振り一振りがピタリと決まっていてカッコイイ。

 夜の場面は画面にコントラストがなく、画面が極めて見にくいのは気になったが、これは昔の映画だからしょうがないのかな。それより盗賊たちの拷問にあっている老人をみすみす見殺しにしてしまう場面や、まがりなりにも御用提灯を持っている捕り方をなで斬りにしてしまう場面、旅先でも着流し姿の退屈男というのは気になった。まぁ時代考証とは無縁の映画なのかもしれないけど、僕にはちょっとわからんなぁ。

 とは言え、袴をはいた退屈男なんて誰も見たくないんだろうけどね。着物の派手さが白黒映画でよくわからないんだけど、最後に着ていた髑髏柄はすごいなぁ。


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