蘇える金狼

1996/09/01 文芸坐2
松田優作というアクションスターが残した輝かしい遺産のひとつ。
エネルギッシュなその姿に僕はメロメロ。by K. Hattori



 角川春樹が逮捕された時、テレビのワイドショーで「角川映画にはろくなものがない」としたり顔で発言していたコメンテーターがいましたが、この『蘇る金狼』も角川映画なんですねぇ。今これと同じぐらいエネルギッシュでパワー溢れる映画を作れるプロデューサーが、日本にどれだけいるだろうか。僕はこの映画をテレビで何度か見ていますが、劇場の大スクリーンで観たのは初めて。いや〜、この機会に観ておいてよかった。これは興奮で身体が震えるくらい面白い映画です。

 昼間は冴えないサラリーマン、アフター5は闇の世界で生きるアウトローという二面性を持った主人公のキャラクターは、同じ松田優作が演じた『最も危険な遊戯』や『殺人遊戯』の主人公に似ています。気弱で人畜無害な男が一歩会社を出ると、欲望渦巻く暴力の世界でのし上がってゆこうとする野心あふれる男に変貌する。このギャップが、物語のスピード感を生み出す原動力になっている。主人公が幾多の危険を冒してまでなぜそう金に執着するのかという動機づけは弱いが、松田優作の芝居と存在感は、そんな設定の弱さを吹き飛ばすぐらい説得力がある。論より証拠。百聞は一見にしかず、なのだ。

 同じような強引さは、物語の運びにも感じる。映画は輸送中の現金を大胆不敵に強奪するシーンから始まるが、この現金がヘロインに化け、再度現金化するまでの過程がまどろっこしい。途中から、話の中心は主人公の勤める会社を脅迫する男と会社側の攻防になってしまうのも、まどろっこしさを増す一因。岸田森演じる会社側の殺し屋と、会社を脅迫する千葉真一の対決の間で、主人公は一時身の置き所がなくなってしまうのだ。

 このエピソードの後半から、主人公は強引にこの物語に割って入る。その強引さ荒っぽさは馬鹿馬鹿しいくらいだが、無理を承知の横車をすんなりと成立させてしまう力強さが、松田優作にはある。この映画において、世界は松田優作を中心に回っているのだ。彼が少々の無理や無茶をしようと、彼の周囲が不可解な行動をとろうと、それで優作が格好よく見えるのであればすべて許される。それがスター主演のアクション映画でのお約束だ。アクションシーンの歯切れもあまり良いとは思えないのだが、手持ちカメラで優作の走る姿を延々追いかけるだけで、それなりに絵になってしまうものなぁ。

 こうした強引さに吹き飛ばされて、尻切れとんぼになっているエピソードが気になるなぁ。千葉真一がトイレの水槽に隠したテープとフィルムは、結局どうなったんだろう。優作にコケにされた白髪の代議士は、あのまま引き下がるのだろうか。ふ〜む、気になる。

 この映画では松田優作も千葉真一も、女と共に危険な橋を渡ろうとして、結局は女と共に自滅してしまう。女こそ男の敵だ。だが女なしに男は何事もなし得ない。徹底して暴力に明け暮れ、他人を蹴落としのし上がろうとする男たちを描きながら、その背後にこうした男と女のドラマがあるから、この映画は少し甘く優しい味がする。


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