ジョン・キャンディの
大進撃

1996/08/06 銀座シネパトス3
外敵をなくして支持率の落ちたアメリカ大統領はカナダとの冷戦に突入。
安っぽい映画だけど抱腹絶倒間違いなしの快作。by K. Hattori


 ジョン・キャンディの遺作という紹介のされかたで上映された映画だが、この映画にはそんなセンチメンタルな案内は似合わない。とにかく最初から最後まで楽しくて楽しくて、げらげら笑い通しの政治コメディなのです。

 冷戦が終了して、世界秩序の責任を一手に背負わされてしまったアメリカ。この半世紀、共産主義からの脅威というコンセプトで国内をまとめ上げてきたアメリカ合衆国は、ここに来て建国以来の危機に見舞われていた。巨大な危機管理には長けているアメリカも、内政問題に関してはノウハウが全くない。冷戦を終結させた偉大なアメリカ大統領も、平和な時代に何を旗印に国民を導いてゆけばいいのかわからなくなってしまう。国家間に適度な緊張関係があった方が、政治家は働きやすいのだ。アメリカは元首間で管理された限定的な冷戦の復活を望むが、それはロシア大統領に一蹴されてしまう。

 「あんた方は冷戦に勝った。勝者が敗者に物を頼むなんてアベコベでしょう」と相手にしないロシア大統領。「今までさんざん俺たちの鼻先に核ミサイルを突き付けておいて、平和が来たら知らんぷりとは無責任だ」と泣き付くアメリカ大統領。話題が「冷戦の復活」かどうかは別として、実際に米露首脳会談なんてこんなものかもしれませんね。このあたりは変なリアリティがありますね。本筋以上に、こうした序盤の背景説明が面白い。

 原題の「CANADIAN BACON」というのは、外敵の消失に給したアメリカが苦し紛れにカナダを仮想敵国にでっち上げたことから発生した国家防衛作戦のコードネーム。カナダがアメリカにとっていかに危険な国かという事を繰り返し訴えるテレビ放送。それに煽られて、国境の町の血の気の多い住人たちが、カナダに一泡吹かせようと実力行使に出たから大統領は大慌て。政府が望んでいるのは「管理された長い冷戦」で、「一瞬にして決着がつく戦争」ではないからだ。冷戦は大統領への求心力を高め、国民は結束し、軍需産業は栄え、経済は発展するが、戦争は何も生み出さない。(このあたりの理屈も、変にリアルなんだよなぁ。)

 カナダに潜入したジョン・キャンディ一行を追跡し抹殺すべく、政府の特殊部隊オメガ・フォースが送り出される。これがまた傑作。彼らの精鋭非情冷徹ぶりには、思わず爆笑してしまう。この後、兵器産業の親玉が核ミサイルをネタにアメリカ大統領を脅迫したりするんだけど、これはエスカレートした物語を収集させるためだけのエピソードでしょう。はっきり言って余計な挿話です。

 アメリカが反カナダキャンペーンを繰り返すほど、映画を観ている観客はどんどんカナダが好きになってくるから面白い。おおらかで素朴な人々と、美しい自然と調和した都市。トロントを見た主人公たち一向が、思わず「美しい……」と感嘆の声を上げるのにも納得。

 ビル・マーレーやダン・エイクロイドなど、ゲストの繰り出すギャグも強烈。思わずイスから転げ落ちそうなくらい笑えます。ビデオになったら是非とも見るべし!


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