雨に唄えば

1996/07/20 銀座文化劇場
ミュージカル映画の古典だけど、劇場には初めて観る人も多かったみたい。
ギャグシーンではかなり笑い声が起きていた。by K. Hattori


 ビデオで見るのもいいけれど、やはり映画を大画面で観ると別の発見があるものです。今回遅まきながら、冒頭劇場前に集う群衆の中に、レスリー・キャロンらしき女の子を発見しました。お巡りさんの横で興奮のあまり失神してしまう女の子は、レスリー・キャロンですよね、ですよねぇ。(どうせみんなとっくの昔に知ってたんだろうなぁ。ちぇっ。)キャロンはこの映画の前年、ジーン・ケリーと『巴里のアメリカ人』で共演したばかりですから、その流れでゲスト出演してもおかしくない。

 第2の発見は、明らかに歌がカットされたであろう場面に気がついたこと。リナにケーキをぶつけたキャシーを追いかけたドンが、車で去る彼女を見送った後、なんとなく家の中に戻れないまま立ちつくしている場面ですけど、この雰囲気だとこの後絶対に歌が入りそうなんだけどなぁ。サウンドトラック盤を聴くと、パーティでデビー・レイノルズが歌った「All I Do Is Dream Of You」を、ジーン・ケリーが歌っているバージョンがありますよね。この曲は本編では使われていないんですが、多分この場面にケリーの歌うバージョンが挿入されていたに違いない、と勝手に想像しています。

 物語の中では訛りのひどいジーン・ヘイゲンの声を、デビー・レイノルズが吹き替えることになっていますが、じつはこの映画の中ではレイノルズの台詞と歌自体が吹き替えられているのは皮肉です。サイレント時代のスター、リナ・ラモンドのキーキー声は聞くに耐えないものだったというのが話の前提なんですが、実際のヘイゲンは流暢に台詞を語れる女優で、映画の中でキャシーが吹き替えているリナの声は、ヘイゲン自身のものだそうです。またリナが劇中映画で歌う「Would You?」は、ベティ・ノイスという人が歌っているそうです。以上は「ハリウッド・ミュージカル映画のすべて」という本に載っていました。吹き替えたリナの声とキャシーの声がぴったりと重なるのに感心したもんですが、恐らくこれはヘイゲンが声を変えて2度芝居したんでしょうね。気をつけてみていると、確かに吹き替えの場面などは声がレイノルズと違いますし、彼女の口元が画面に映らないように気を使っていますね。

 ドナルド・オコナーの芸達者ぶりも大画面だと迫力があり、無名時代にミュージックホールで見せる「Fit as a Fiddle」、スタジオでドンを励ますために歌う「Make 'Em laugh」、発声教師をからかう「Moses」、そしてデビー・レイノルズを加えた3人で歌う「Good Morning」など、ジーン・ケリーを向こうに回して一歩もひかぬ芸人ぶり。ケリーとのデュエットタップでは、オコナーの持つ軽さがケリーの体育会系の体臭を消し、スピード感だけを引き出す効果的な触媒になっている。

 ビデオで見ると無駄に長くて退屈に思える「Broadway Ballet」も、大画面で観るとあふれる色彩に息を呑む。小さな歌曲で小さな物語にまとまりかけた映画にボリュームを出す、モナカの中の餅のようなナンバーですね。


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