誘う女

1996/07/14 丸の内ピカデリー2
ニコール・キットマンがこの役を演じると半分セルフパロディぽいぞ。
はた迷惑なずれてる女の物語だけど面白い。by K. Hattori


 高校教師が男子高校生を誘惑して夫を殺させた実話をもとにした映画。ニコール・キッドマンが殺人を教唆する妻を演じているが、物語は実話から離れ、彼女はテレビキャスター志望の女ということになっている。地方局のお天気キャスターという設定は、先日観た『アンカーウーマン』を思い出させます。キッドマン演じるスザーンは、残念ながらミシェル・ファイファーほどには頭がよくない。むしろ「馬鹿」と言っていいでしょう。短大に行ったのが自慢だそうだから、お勉強はできなかったわけではないのかもしれないけど、なんというか、行動が常に場違いなんですね。

 はっきり言って彼女はどこかで自分の才能と実力を買いかぶり、自分がやりたいこととできることとを履き違えた勘違い女なんです。彼女の頭が悪いという描写は、しつこいぐらい次々に登場します。化粧も下品だし、しゃべり方ももったいぶって気持ち悪い。オーバーアクションも鼻に付く。そういうことを全部含めて、どこかしらこの役柄がキッドマン本人にダブるところがないわけではない。彼女自身、ハリウッド・デビュー以降しばしば「トム・クルーズの嫁さんがでしゃばってる」という目で見られていましたからね。この役を3年前の彼女がやれば、ほとんどセルフパロディでしょう。堂々とこの役に打ち込めるってことは、それだけ彼女が女優として本物になったってことです。

 テレビに出演しなければ生きている甲斐がない、という主人公の主張は、多かれ少なかれ皆の心の中にあるものだと思う。まぁテレビに限定せずとも、皆に注目されたいという欲求ね。それはわかるけど、主人公が夫を殺すまでに追いつめられていく過程がどうもよくわからない。本人と関係者の証言をモザイクのようにつないで物語を作る手法は面白いけど、作られた全体図は少し平面的すぎるんじゃないかな。妻が高校生を使って夫を殺すというセンセーショナルな題材より、主人公のメディア中毒のあつかいが大きくなっているが、結果としてそれが人間同士の葛藤というドラマを希薄にしてしまった。

 実行犯である男子高校生に、故リバー・フェニックスの弟フォアキン・フェニックス。このフェニックスがまたアタマの弱いできない坊主なんだけど、単なるステレオタイプな落ちこぼれじゃなくて、もっと根深い人間の罪深さや弱さのようなものを漂わせますねぇ。警察の取り調べで「彼女とはいつから不倫関係にあったんだ」と問われて「そんなんじゃない。僕と彼女は愛し合ってたんだ」と押し出すようにつぶやく場面は見せます。なかなかああいう場面を情感たっぷりに演じられるものじゃありません。これから楽しみな俳優ですね。

 今回僕は、同じできない坊主グループの紅一点、リディアを演じたアリスン・フォランドという新人女優に注目しました。役柄しだいではぐんと伸びる女優だと思うけど、本人は今後も女優業を続けることに執着がないみたい。そんなこと言わずに、映画に出続けてほしい。


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