好きと言えなくて

1996/07/14 シャンテ・シネ3
ユマ・サーマンに3流のモデルを演じさせたのはうまいキャスティング。
主演のジャニーン・ガラファロは魅力的です。by K. Hattori


 女性の価値は見た目にあるのか、それとも中身か、という古典的な二項対立を、ユマ・サーマンとジャニーン・ガラファロが受け持つロマンチック・コメディ。ラジオ局で電話によるペット相談の番組を持つアビーことガラファロが、撮影中に犬のなだめ方を電話コーチしたカメラマンからお礼のデートに誘われる。ところがカメラマンは、たまたまスタジオに遊びに来ていたユマ・サーマン演ずるノエルをアビーだと思い込んでしまったことから物語が大もつれ。このあたりは「とっとと誤解を解いとけよ」と言いたくなるところでもあるが、その前段にちゃんと伏線が張ってあるから、言葉を偽る気持ちが分からないでもない。

 監督のマイケル・リーマンは、ブルース・ウィリス主演のアクション映画『ハドソン・ホーク』や、売れないロックバンドが成り行きで放送局を乗っ取る『ハードロック・ハイジャック』を撮った監督。前々からその独自のコメディセンスには注目すべきところがあったんだけど、前記2作ではギャグがことごとく空振り。どうも出演者や設定の奇抜さに振り回されて、本来の力が殺されてしまうようなところがあった。

 コメディ映画におけるギャグの空振りや不発は、あまり続くと習い性になります。僕はそろそろリーマン監督に見切りをつけようかとお持っていましたが、今回の『好きと言えなくて』は文句なしに面白い。序盤はごく普通のロマコメだったんだけど、ユマ・サーマンの前で自転車の男が車にひかれそうになる場面や、ハチを追い払おうと別の男が大奮闘する場面などは、必ずや場内が爆笑に包まれる珍場面。こういう突飛な場面は、マイケル・リーマンのタッチかなぁ。

 何よりもまず、主人公アビーの人物像が魅力的に描けているのがいい。強いところも弱いところも含めて、しっかり自分自身を知っている女性なんだよね。自分の得意分野がちゃんとあって、その中で自分の世界を作っている。彼女は自分自身をよく知っているからこそ、恋愛に対しては弱気になってしまう。アビーを演じたジャニーン・ガラファロは初めて見る顔でしたが、決して不美人というわけじゃない。でも、親友にユマ・サーマンを持ってくると比較するしねぇ。このあたりはキャスティングの力です。隣に中途半端な美人を持ってくると、このお話は嘘になってしまうもんね。

 ユマ・サーマンが美人だけどアタマ空っぽの3流モデル、ノエルを演じてはまり役。このノエルは雑誌の記事をながめて「私の付き合っている男は最悪だ」と泣いてしまうような女性です。彼女がケーキを食べるシーンもおかしかったなぁ。

 この映画の中ではアビーの恋の行方とともに、アビーとノエルの友情がひとつのテーマになっている。むしろわけのわからないカメラマンとのエピソードなんかより、僕はこの二人の友情に感動しました。二人それぞれの成長ぶりを見て、ちょっぴり元気になれる映画です。


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