ショウ・ボート

1996/06/14 銀座文化劇場
ジェローム・カーンの名作をMGMが映画化した豪華作。
1曲ごとに物語がとぎれる、古いミュージカル。by K. Hattori


ショウ・ボート

 原作は1927年に初演されたブロードウェイ・ミュージカル。作詞はオスカー・ハマースタイン2世、作曲はジェローム・カーン。MGMが1951年に製作したこの映画は、『ショウ・ボート』3度目の映画化。最初の映画は1929年、2度目が1936年の製作で、物の本には2作目が傑作と書かれていることが多い。しかし、一般的に見る機会が多いのはやはりMGM版でしょう。僕もMGM版しか見たことがありません。

 この作品がこう何度も映画化され、今でもしばしば舞台の上で取り上げられているのは、19世紀末から20世紀にかけてのアメリカ南部の風景を映した古典作品としての地位をこのミュージカルが得ているという理由もあるでしょうし、何と言っても物語に時代を越えた普遍性があるからだと思います。このミュージカルは華やかな舞台の裏にある人間模様を取り上げている「バックステージ物」の要素もあるし、作り物のお芝居から本当の恋が生まれるという「ショービジネス讃歌」でもあるし、何より家族や友情の物語としてよくできています。

 残念なことにMGM版『ショウ・ボート』は映画としてのできが悪く、物語の魅力を十分に引き出せているとは思えない。役者や舞台装置は豪華、歌は名曲ぞろい、物語は骨格がしっかりしているし、映画化するにあたっての脚色も素晴らしいと思うのだが、肝心の演出がまるっきし下手くそ。原作が古いスタイルのミュージカルだから、物語の進展が歌の挿入で途切れがちになっているんだけれど、それを映像や編集テクニックでなめらかにつなごうという努力がまるでなされていない。歌はいつも突然始まり、思い入れたっぷりにカメラが歌手をズームアップした挙げ句、そこでぶっつりと流れが途切れてしまう。二の句が継げないとはこのことだろう。舞台の上なら歌い終わったところで客席から拍手と歓声があり、それがおさまった頃に物語を再開するのも悪くない。多分『ショウ・ボート』というミュージカルはそういうタイプの舞台なんだと思う。でも、それを映画でやられると観客は戸惑うよね。

 映画は後半、マグノリアとゲイロードが結婚して船を降りるあたりから俄然生き生きしてくる。どうやらこのあたりから映画のオリジナルみたいです。新婚のラヴェナル夫妻が、羽振りのよい生活からあっという間にどん底に落ちるまでを一気に見せるところは編集の妙技。エヴァ・ガードナー扮するジュリーが、どんどん身を持ち崩して行くのも切ないよね。彼女の歌う「Can't Help Lovin' Dat Man」や「Bill」は素晴らしいし、家族の再会を物陰から見守ったジュリーが、遠ざかって行くコットン・ブラッサム号にキスを送るシーンは泣ける。朗々と響く「Ol' Man River」が感動的でした。


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