ジキル博士はミス・ハイド

1996/04/10 銀座シネパトス3
『エース・ベンチュラ』といいこの映画といい、ショーン・ヤングは偉い。
『ブレードランナー』のレイチェルはいずこへ。by K. Hattori


 予告編からしてオバカなB級ムービーだと目星をつけていましたが、予想通り見事にバカなことをやってくれました。二重人格の代名詞にもなっている「ジキル博士とハイド氏」。ジキル博士が残した実験ノートをもとに、彼の曾孫が同じ実験を行って同じ失敗を繰り返すというハチャハチャの喜劇です。人相の悪い粗暴な男になった元祖ジキル博士と異なり、曾孫の方は容姿端麗なミス・ハイドに変身してしまうというのがこの映画のアイディア。加えてミス・ハイドを演じているのがプッツン女優ショーン・ヤングというも、爆笑もののキャスティングと言えるでしょう。今回の映画なんて、ショーン・ヤングの存在なしにここまでの面白さは出ないでしょうね。

 ヤング演ずるミス・ハイドは容姿こそふるいつきたくなるような美女なのだが、中身はかなり問題あり。博士ゆずりの頭脳と備わった美貌を武器に、博士の働いていた香水会社と博士の身体を乗っ取ろうと画策する。近づく男達を色仕掛けで攻略し、邪魔な男は硫酸と電気ショックで撃退する怖い女という設定は、ショーン・ヤングなら演技しなくてもOK。シャワー室から全裸で登場するところは「キャットウーマン事件」を思わせ、色仕掛けの強引さと復讐の壮絶さはハリウッドを震撼させた「危険な情事女」の本領発揮です。

 この規模の映画としてはお話も良くできている。変身場面も派手なSFXを使わず、比較的地味な仕上がりになっているけど、それでも充分に効果的なのですね。必要最小限の処理でしょう。人物の配置や役割分担も、おおむねステレオタイプでありながら、各人物ともとてもチャーミングに描かれていて好感が持てる。

 コメディ映画としてまずまずの及第点だとは思うけど、これだけの素材を擁しながら爆発的な笑いに到達できないのは残念。嫌味にならない程度に大げさな芝居や、抑制の利いた派手な演出は上品すぎる。ショーン・ヤングに自分自身を演じさせるというグロイことをやっているのだから、演出ももっと濃くて下品になったってよかった。人格の分裂による二重生活のちぐはぐさが緊張を生む様子は描けているんだけれど、張りつめた緊張感が破裂した先にある、不条理で理不尽で暴力的な笑いにまで連れていってもらいたかったと思う。キャスティングでニヤニヤさせるのは「つかみ」でしかなくて、その先は有無を言わさず笑わせてほしい。

 序盤がもたもたするのも気になった点。ショーン・ヤングが登場するまで時間がかかりすぎる。これは例えば最初から変身シーンや二重生活のどたばたぶりを描いておいて、それ以前のイキサツを回想シーンで処理するとかすれば、もっとスマートな展開になったと思うんだけどなぁ。


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