レベッカ

1996/03/20 銀座文化劇場
ヒッチコックのアメリカデビュー作であり代表作のひとつでもある傑作。
なんたってあの屋敷のセットがすごいよね。by K. Hattori


 恥ずかしながら今回が初鑑賞。ローレンス・オリビエはともかくとして、ヒロインのジョーン・フォンティーンはこの映画の演技あたりが代表作なのでしょうね。でも僕は彼女がフレッド・アステアと共演したRKOのミュージカル映画『踊る騎士(ナイト)』で、彼女とは旧知の間柄です。アステアがジンジャー・ロジャースとのコンビを解消した、その直後の相手役が彼女でしたが、歌も踊りも見せない地味なヒロインぶりにはがっかりしたものです。

 『踊る騎士(ナイト)』のフォンティーンは英国貴族のお嬢様で、アメリカ人ダンサーのアステアがお城のような屋敷に乗り込んで彼女を口説きまくります。『レベッカ』では役柄が正反対になり、お城のような屋敷に住むオリビエのもとに、貧しいアメリカ娘が嫁いだという設定になっています。フォンティーンが屋敷の中でおどおどしている様子は、新興国家アメリカ人のイギリス貴族社会に対するコンプレックスそのものなんだけど、それを描いているのがイギリス人映画監督ヒッチコックっていうところが、なんとも意地悪な素材選択ではありませんか。

 映画の中身はよくできた心理サスペンスで、オリビエの家の後妻に入ったフォンティーンが、事故死した前の妻レベッカの影に脅かされる。何かとレベッカと比較される主人公は、評判を聞く限りあまりにも完璧なレベッカの姿に萎縮してゆく。どんなに努力してもがんばっても、それがことごとく裏目に出て、どんどん追いつめられて行く主人公。彼女の前に立ちふさがっているのは、レベッカ以外の女を屋敷に入れまいとする女執事で、この女のネチネチした意地悪ぶりが主人公を責めさいなむ様子など、まるで日本のホームドラマにおける嫁いびりのようである。意地悪がエスカレートして、主人公を窓から突き落とそうとするあたりがサスペンスのクライマックスでしょうか。目に大粒の涙をたたえながら、窓の下の石畳に吸い込まれそうになる主人公。その時窓の外の海から、突如海難信号の花火が上がり、主人公は我に返る。だが主人公はこの後もっと恐ろしい話を、自分の夫から聞くことになる。

 きめ細かなしっとりとしたモノクローム映像に、男と女の愛憎があぶり出されて行く後半の展開はなかなか見応えがある。前半からの小さな複線が一転に収束して行く、古典的ミステリー映画の快感。光と影を巧みに使った、室内シーンの撮影は見事で、追いつめられて行く主人公の心理を巧みにフィルムに定着させている。圧巻はラストの屋敷炎上シーンで、全てを焼きつくす炎がまるでレベッカの亡霊のように屋敷を包み込む様子はに鳥肌が立つような恐ろしさを感じると同時に、室内を舐めて行く炎の美しさには陶然とする。屋敷に火を放った女執事は、レベッカの思い出と心中するのである。合掌。


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