変態家族
兄貴の嫁さん

1996/03/16 大井武蔵野館
周防正行の監督デビュー作。小津映画への愛情が作らせた異色映画。
パロディと呼ぶにはあまりにも生真面目な演出。by K. Hattori


 『Shall we ダンス?』が大ヒット中の周防正行が撮った監督デビュー作。この映画で大いに注目された周防監督は、この後『ファンシイ・ダンス』で一般映画に進出するのだが、その頃は既に「ピンク映画で小津安二郎をやった映画マニア」としてかなり評判になっていた。以前から機会があれば観たいと思っていた映画だが、つい先日シネマ有楽町での上映はうかうかと見過ごし、今回大井武蔵野館でようやく観ることができた。周防監督は今が旬だし、そこそこ客が入ってるかと予想しましたが、案に相違して館内はガラガラ。なかば拍子抜けして劇場の椅子に座りました。

 映画は噂通りの小津安二郎タッチで、特徴的なカメラアングル、役者の芝居や台詞回し、家族の解体というテーマまで、まるきり小津安二郎そのものでありました。ただ悲しいかなこの映画は低予算のピンク映画で、セットがどう見ても安普請でしょうがない。たびたび登場する障子など、紙がヨレヨレで見ていられない。画面が薄暗くて粒子が粗いのは明らかに光量不足で、ふんだんに照明機材が使えなかったことがしのばれる。

 この映画を観てびっくりしたのは、これほど執念深く小津安二郎の表現スタイルを引用し模倣しながら、それがほとんどパロディとして爆発的なギャグに結びついていない不思議さです。嫁を迎えた長男が新婚旅行に行くことなく自宅の2階で初夜のセックスに励み、その様子に父親と適齢期の長女、次男が耳をそばだてているというのがそもそもおかしい。この導入部ではまだ性交描写と小津タッチの間に違和感があるのだが、中盤以降は小津的な静けさの中に濡れ場が見事にはまってしまうという離れ業を見せる。全く異質なものがふたつ出会うのはそれだけでギャグになりそうなのだが、周防監督はあまりに見事にそれをやってのけるため、違和感が違和感として機能せず、ギャグにならないのです。この映画の中で辛うじて小津調とピンク描写がギャグになっていたのは、長女がトルコ風呂で客をとる場面ぐらいでしょう。この場面はおかしかった。

 物語の終盤、長男は行きつけのバーのママとのSMプレイに耽溺し家を出てしまう。残された嫁が部屋の片隅にころがる荷造りヒモのかけらに夫の面影を見てオナニーする場面は壮絶でした。周防監督の映画では、登場人物が観客達の予想した到達点より先に進んでいってしまう場面がたびたびありますが、この荷造りヒモによるオナニー場面もまさにそうした場面のひとつでしょう。オナニーの背景に小学校の校舎を入れるあたりも秀逸。オナニーしながら甘い嬌声を上げる嫁の姿に、父親が「母さん、息子にはすぎた嫁じゃないか」とつぶやく場面のすごさ。濃密なエロスに僕は頭がくらくらしました。


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