疾風!鞍馬天狗

1995/12/10 大井武蔵野館
嵐寛最後の鞍馬天狗映画は大河内伝次郎との共演。
物語は歯切れが悪くて納得がいかないなぁ。by K. Hattori



 昭和2年の『角兵衛獅子』以来、延々演じ続けられてきたアラカンの鞍馬天狗シリーズ。その最後を飾るのは、共に戦前から剣戟スターとして活躍してきた大河内伝次郎との共演作。アラカン天狗は『御用盗異変』の江戸から再び京都に戻り、八面六臂の大活躍。幕府の弱体化に付け入り、勤王一派を一掃する大義名分で、あろう事か幕府を私物化しようとする公儀大目付堂前右近が今回の敵役。

 右近は佐幕急進派の若い武士たちと秘密の結社を結ぶと同時に、不思議な催眠術をもてあそぶ怪僧開善和尚と共に、大阪堺の商家から子どもを誘拐し身代金を取ろうとする。右近が腕の立つ男と見込んで結社への参加を頼む、一刀流の達人山根紋十郎が今回の大河内の役どころ。世俗を離れひとり己が道を極めんとする初老の剣士は、まさに大河内にぴったりの役と言えるだろう。何しろこの人この時点でかなり太っていますから、とても現役の剣士はつとまりそうにない。かといって剣をにぎらせればやはり年季の入った颯爽とした太刀さばきを見せるからさすがだ。山根は右近の語る政治の動きに興味を示さず、結社への参加を断る。彼の楽しみは、年頃になった娘お縫の行く末だけである。

 そのお縫はかつての父の弟子、今は右近配下となった若い侍松浦小吉に惚れている。松浦は血気盛んな若者だけに、右近の語る理想に心を動かされ、その裏側にある腹黒さが読めない。自分たちの正義がなぜ師匠である山根に伝わらぬのか、怪しみもし歯がゆくもある。彼は自らも心を寄せるお縫を自分の手元に引き込むことで、山根を自分たちの一派に引き入れようと企む。邪魔者は鞍馬天狗。山根には天狗がお縫を誘拐したと告げ、逆上した山根が天狗を斬ることを欲したのだ。ま、こんな底の浅い企みはすぐに露見する。共に剣の道を極めた天狗に対する山根の誤解はすぐに解け、最後はふたりして敵と戦うことになるのはお約束通り。

 ただ、この後のチャンバラはやけにあっさりとしていて物足りない。この映画は物語が骨太だし、アラカンと大河内の共演という華があるにも関わらず、当然期待される大がかりな立ち回りがことごとく不発になっている。ラストに用意されているふたりの真剣勝負もやけにあっさりしている。

 それにしても、天狗と開善和尚との対決はひどい。なぜ天狗が早々に開善を斬らないのだろう。天狗がのろのろしているから、開善の催眠術で妾同様の身となっていた不幸な女は命を失うことになってしまった。ひょっとしたらこのあたりにも「女は一度操を失ったらあとは死ぬしかない」という『御用盗異変』的な思想があるのかもしれない。だとしたらひどい話だと思う。お仲さんには生きてほしかった。


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