サンタクローズ

1995/11/19 日劇プラザ
サンタクロースは現実逃避のための手段じゃないはずなのに……。
お話のコンセプトに納得が行かないぞ、僕は。by K. Hattori



 この冬唯一の正統派クリスマス映画のはずなのに、なぜか12月に入ったとたんにロードショーが終わってしまうという謎の映画です。アメリカでは昨年クリスマスシーズンにリメイク版『34丁目の奇跡』を大きく引き離してヒットした映画ですが、内容的には『34丁目の奇跡』の方がよくできている。アメリカでヒットした理由は、単にアメリカの観客が『34丁目の奇跡』という古典に新鮮味を感じなかったからかもしれません。といっても、何か新しいことが見たいと思っている観客に対して、この『サンタクローズ』が話題を提供しているかというとそんなことは全然ないのですが、観客の予想や期待を大きく裏切ることはどんなジャンルの映画にもよくあることなので文句も言えません。昨年のクリスマスシーズンに『34丁目の奇跡』と『サンタクローズ』のどちらかを観ようと悩んだあげく『サンタクローズ』を選んだ観客は、さぞや自分の選択眼を呪ったことでしょう。

 この映画の見どころは、どちらかというと面長の中年男がみるみる太ってサンタクロースの体型になってしまうという一点にあります。それ以外のエピソードはさして目新しくもないし面白くもない。僕がこの映画に対して大きく不満に感じるのは、ひょんなことからサンタクローズ(サンタ契約)を取り交わしてしまった男が、実生活上のトラブルを何ひとつ有効に解決しないままサンタクロースとして実社会に別れを告げてしまうことです。仕事熱心で家庭をあまり顧みない男が、妻と別れて子供とも別居中という状況設定はいかにも現代のアメリカ映画なのだけれど、現代のアメリカ映画ならこの出発点から「家族の再生」に話を持っていってほしかった。この映画では、壊れた過程は最後まで壊れたままなのです。主人公の男は家族と離れ、仕事を捨てて、サンタクロースになってしまう。これはちょっとずるいし、中途半端な気持ち悪さが残るのです。もっとも、こうした場合有効な家族再生の手だてを持っていないのが、現在のアメリカの偽らざる素顔なのかもしれませんけどね。

 手の込んだ特殊メイクに比べると、サンタクロースのソリが空を飛ぶシーンは手抜きではないかと思うくらいお粗末。合成が甘いなどの技術的な欠陥があるわけではないのだが、屋根の上での離発着や飛行シーンに何の高揚感もないのは残念だ。ここで観客がワクワクできれば、それだけでも映画は本物になれたのにと思う。こうした場面はアニメーターの仕事になるのだろうが、アニメーション映画の本家本元ディズニーにしては質の悪い場面だと思う。この場面だけでも日本から飛行シーンの描写に関しては右に出る者のいない名人・宮崎駿を呼んで演出させられれば面白かったのにね。


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