オールザット・ジャズ

1995/07/29 銀座文化劇場
バックステージ・ミュージカルの傑作。ただし爽快感はなく苦い味が残る。
才人ボブ・フォシーの自伝的ミュージカル映画。by K. Hattori



 今までに観るチャンスが幾度もあったにもかかわらず、なんとなく観ることがなかった映画。ボブ・フォシーの自伝的な映画だから、彼の人となりを多少なりとも知っていると面白い。僕はあまりよく知らなかったんだけど、フォシーの奥さんは僕の大好きなグウェン・バードンだということだけは知っている。というわけで、この映画にもバードンを模した人物が登場します。

 ジャンルとしてはバックステージ物のミュージカル映画。『四十二番街』以来の、伝統的な枠組みの範疇にある物語だ。天才肌の演出家がいて、周りのスタッフや支援者と軋轢を起こしながらも、ひとつの舞台を作り上げて行く。演出家は乱れた生活がたたってか、あまり体調が良くない。周囲の人間は彼の才能を讃え、それを頼りにしながら、彼の生活スタイルを半ば軽蔑している。彼は平気で周囲の人間を傷つける。

 主人公の演出家が鏡の前で続ける毎朝の儀式。ズタボロになった自らの身体にむち打ち、鏡の向こうにいる自分を鼓舞するように「ショウタイムですよ、皆さん」とおどけてみせる。死に魅了されながら、何よりも死を恐れる男。がらんとした部屋でジェシカ・ラング演ずる女と語り合うのは、主人公の偽らざるもうひとりの自分。このあたりは、いささか精神分析的というか、説明口調というか、露悪的にすら見えるんだけど、この演出が物語を立体的にしているのも事実。また、彼の実際の行動と内面とのギャップがユーモアを生むときもある。彼がかいま見せる男のずるさみたいなものに、多少の心当たりがない男はいないだろう。

 内容や物語云々より、この映画を作ってしまったボブ・フォシーという人はすごいひとです。誰がどう観たって本人自身を描いた自伝的映画なのに、その中でここまで主人公を突き放せるものかねぇ。なんたって、彼はこの映画の中で映画のプロデューサーに自らを「天才だ、素晴らしい」と手放しで賞賛させる一方、周囲の人間を残酷に踏みつけて行く様子も同時に赤裸々に描写してしまう。一般人の目から見ると、かなり恥ずかしい映画だなぁ。

 印象に残るシーンは盛りだくさん。振付や演出を通して舞台を組み上げて行くシーンはスリリングだし、娘にダンスのレッスンをするシーンも忘れがたい。自宅の居間で恋人と娘がダンスを披露するシーンは、ちょっと『スタア誕生』を思い出した。病院の幻覚の場面は素晴らしいけれど、これを演出している人間はほとんどマゾだね。

 幻想のテレビショウに出演した主人公が、周囲の人間にわびながら死んでゆくのだが、これはなんなんでしょう。結局、自分の人生に帳尻を合わせたいのかしら。最後にエセル・マーマンの歌。出来すぎ。


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