無頼平野

1995/07/22 シネマ・カリテ3
時代も場所も不明な完全な虚構の町を舞台にしたアクション。
古風な筋立てをパロディではなくマジで通すすごさ。by K. Hattori


 今の時代、パロディでなくこの映画を作って、しかもきちんと見せてしまう石井輝男のエネルギーはすごい。ほとんど時代錯誤とも言うべき設定と、強引なストーリー展開。過剰で大げさ一歩手前の演出。めくるめく色彩感。濃厚なエロティシズム。

 人物の動かし方なども手慣れたもので、加勢大周演ずる主人公が撃たれた歌手をめがけて何のためらいもなく舞台に駆け上がる導入部から、観客をぐいぐい惹き付けて離さないこと請け合い。他の客や劇場関係者、バンドマンたちがただオロオロ右往左往する中での、主人公の俊敏な行動で、この男の気持ちがひりひりするほど伝わってくることになる。

 「惚れた女を命がけで守る」という、単純で明快な行動原理。今どき流行らない、暴力的なヒロイズム。むしろ、佐野史郎演ずる冴えない男の、ぼんやりとした優柔不断な優しさの方が今風か。話は突然脱線するが、佐野が血液銀行で知り合った女とセックスするシーンは、とんでもなくエッチだったなぁ。このエピソードは本筋にほとんど関係ないんだけど、すごく印象的でした。そうそう、印象的と言えば、映画の最初の方に由利徹が登場するのもオッカシイんだよね。純粋なゲスト出演ですね。

 そうそう。古風な男の話だというところで、脱線したんだった。主人公の行動原理がほとんどマンガチックなまでに単純で、非常にわかりやすい。わかりやすすぎる。ヒロインがピンチになるとどこからともなく颯爽と現れて、彼女を危機から救う。彼女は彼の熱い気持に気づいているが、彼の気持を受け入れることはない。また、彼もそれを求めない。ストイックと言うか、馬鹿と言うか。

 ま、これはダンディズムの姿を借りたやせ我慢で、それがやせ我慢だってことは敵役の組長の娘が主人公を誘惑するシーンで証明されてしまうんだけどね。彼はこの妖艶な娘の肉体を、愛する女の代用品として抱いてしまう。だからこそ、彼はもう好きな女の前に姿を出すことができない。女を助けるためとはいえ、彼は汚れきってしまった。結局彼は、薄汚い夜の路地でひっそりと野垂れ死ぬ。

 残酷描写や暴力描写も手慣れていて、グロテスクなシーンですらひとつひとつがピタリと決まっている。主人公が女にまとわりつくチンピラを殴るシーンでは、ショーウィンドウ越しにこの殺陣を撮り、殴った瞬間にウィンドウのガラスに血糊が飛び散るなど、これも一種の美意識ですねぇ。

 最後の大乱闘シーンは理屈抜き。松葉杖が飛んできたときは笑ったけど、杖を投げてしまったはずの男がしっかり杖をつきながら登場したときはもっと笑った。ピストルが全く登場しないってのも、格闘シーンを盛り上げるための方便か。古くさい映画だが、今の映画としての勢いがちゃんとある。


ホームページ
ホームページへ