ショーシャンクの空に

1995/06/04 松竹セントラル1
原作はスティーブン・キングの「刑務所のリタ・ヘイワーズ」。
相棒を黒人にしたアイディアが成功した。by K. Hattori



 キングの原作は日本語訳が出た直後に読んでいたが、それがこんな素敵な映画になったとは。同じアンソロジーから映画化された『スタンド・バイ・ミー』より、ひょっとしたらこの映画の方ができがいいかもしれない。この功績の半分は、やはりキングの原作にあるだろう。残り半分は、原作の持ち味を殺すことなく脚本に仕上げ、演出もこなしたフランク・ダラボンにある。この脚本自体は何年も前から完成していたようですが、何がなんでも自分で監督するために映画かが先送りになっていたのだそうですね。構想○年の類の映画は作者の思いこみだけが先走って失敗することが多いし、ましてやダラボン監督はこれが長編映画デビュー作。それがこんなにまとまりのいい映画を作ってしまっていいんでしょうか。ほとんど職人監督のような、手慣れた演出手腕に驚きました。

 舞台になっているショーシャンク刑務所は、原作者と脚本家がイメージで作り上げたフィクションで、実際の刑務所を入念に取材したりすることはあえてしなかったそうです。キングの小説は過去の映画や小説からのイメージを引用踏襲して、そこに新たな物語の命を吹き込むことを得意とする作家ですが、このショーシャンク刑務所の中で繰り広げられるエピソードの数々も、ほとんどが過去の映画等からの引用でできあがっています。たぶん、映画が大好きな人たちが観ると、どこかでお目にかかったエピソードや描写のオンパレードで、ニヤニヤしてしまうんじゃないでしょうか。こうしたあからさまな引用やほのめかしが、一般観客にとってはむしろフィクションとしてのリアリティを生むのでしょうね。刑務所の中の描写に関しては、『告発』に登場するアルカトラズ刑務所より、このショーシャンク刑務所の方が観客にとってなじみやすいものです。

 主人公のアンディを演じたティム・ロビンスは、一見ぼんやりしているけれど芯に強いものを秘めた人物を演じるとうまいんだよなぁ。役柄としては『未来は今』や『星に想いを』の延長にあるんでしょうが、今回は感情を抑えた静かな演技に徹している。ただ、刑務所の中で感情を押し殺していた彼が、最後の最後に大逆転劇を演じるあたりは、もっと観客に壮快感があってもいいはずなのに、なぜかそうしたスカッとした気分にはなれなかったなぁ。よかったね、というレベルに終わってしまう。たぶん、脱走劇や復讐劇より刑務所の中の囚人同士のエピソードが面白すぎるんだよね。

 囚人仲間レッドにモーガン・フリーマンをキャスティングするセンスは抜群だけど、「アイルランド系さ」という彼の台詞をそのまま生かしたセンスも最高! この一言で、彼のちょっと斜に構えた諧謔性が見事に表現されるんだよな。監督は偉い。


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